永井豪 永井豪エッセイ「豪氏力研究所」 モンキー・パンチ

マンガとして、アニメ作品として、世代を越えて愛される『ルパン三世』。その作者といえば知らない人はいないでしょう、ご存じモンキー・パンチ氏が今回のゲスト。現在『漫画アクション』で同時に連載中のお二人が、マンガの未来について熱く語り合った!

動画撮影/高松義明、編集/水谷明希

LUPIN この対談の模様は、現在発売中の『ルパン三世公式magazine』(双葉社)でも巻頭カラーでお読みいただけます。同誌には特別読み切りとして、TVアニメ1st.シリーズ作画監督・大塚康生氏の描き下ろしマンガ『ルパン三世』も載っているぞ。必見!

この人、外国人?

 
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アメリカン・コミックのテイストの個性的な絵で人気のモンキー・パンチ氏。『週刊漫画アクション』の創刊号でいきなり表紙を飾るという衝撃のデビューは、永井豪氏にも強いインパクトを残していたようだ。
永井豪(以下、豪):僕がモンキーさんを初めて知ったのは、石ノ森先生のアシスタント時代なんです。当時、成年向けマンガ雑誌がほとんどない頃に『週刊漫画アクション』が創刊になって、「この表紙の絵、誰ですか?」と周囲の人たち聞いた覚えがあります。僕、貸本時代のモンキーさんを全然知らなかったんですよ。

モンキー・パンチ(以下、モ):貸本でデビューして、『アクション』で描くまでにブランクがありましたからね。貸本屋がだんだんダメになって、僕もマンガ家として大変な時期で……。アシスタントになろうかなと思って、手塚治虫先生のところに応募したこともあるんですよ。結局行きませんでしたけど。

豪:それこそ手塚先生から流れてきた、それまでのマンガの“線”ってあるじゃないですか。モンキーさんのマンガの線は、そういうのと全然違う。すごく個性的で、こういうタッチの人って初めてだな、と思いました。展開も、これまでのマンガと全然違いますよね。

モ:懇切丁寧に描くよりも、読者にわからなくてもいいや、と思って描いていたから。マンガっていうモノを、ある程度読み慣れてる人を対象にしちゃったんですね。読み慣れた人ならわかるだろうと。「飛躍の面白さを出して」って、よく清水文人さん(※当時の『漫画アクション』編集長)が言ってましたしね。

豪:ああ、なるほどね。ああいうスタイルのマンガっていうのは、モンキーさんのほかにはいないですよ。「だけ」って感じ。そこが面白い。誰の影響かわからなくて「どこにいた人だろう、外国人かな」(笑)とか想像してたんですが。

永井豪×モンキー・パンチ 対談
永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。 石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。
モ:名前のせいで、よくそう言われますね。それも清水さんの意図だったんですよ。いっそ、ナニ人(じん)だかわわからないようにしようという(笑)。

豪:感覚派でしたよね。理屈より感覚で勝負している感じで、それがすごく面白かった。人間の感情をうまく利用して、ストーリーはまとまってないんだけど(笑)、なんかまとまってる(笑)。

モ:いや、まとまってないです(笑)。いつも最後のほうは逃げてましたからね。頭から何も考えずにどんどん描いていったら、ページ数が少なくなっていって、「困ったな、逃げよう」と(笑)。

豪:逃げがオチに見えるから、またすごいですよね(笑)。

モ:それで、逃げてオチが決まらないときにはね、もうページ数超えても描いちゃうの。それで頭のほうを切っちゃう(笑)。

豪:あー、なるほど。僕も行き当たりばったりでストーリーを進めるほうだけど、やっぱり後半のほうが盛り上がってきますよね。後半のほうが面白い。

モ:今ね、昔の作品を全部整理していて、「あれ、こんなの描いていたんだな」と、見て思い出した作品もあるんだけど、その頃のほうが、絵が生きてるんだよなあ。みずみずしいというか……。

豪:若い頃の絵は、ヘタクソだけど勢いがありますよね。締め切りギリギリで描いていたりしてデッサンも滅茶苦茶で、今見ると恥ずかしいんだけど、ヘンな勢いがある。

モ:ダメですね、最近は勢いがなくて。最近は色紙でルパンを描くことが多いんですが、昔描いていたルパンと、全然違いますもんね。上手くなってるというよりも、上手く誤魔化そうとしてる。だから、いつも描き直し描き直しになっちゃうんです。昔の絵を見ると、勉強になりますね。最近は絵描いても、反省ばっかりなんだよなあ(笑)。


セクシーキャラの秘密

 
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ルパン三世』は魅力的なキャラクターたちも人気の秘密だが、特に紅一点である峰不二子のセクシーでお色気満点の肢体に悩殺された読者は多いことだろう。果たして不二子は、いかにして生まれたのか?
モ:『ハレンチ学園』は衝撃的だったなあ。僕は初めて、他人のマンガを読んで「ようここまでやるな」と思った(笑)。

豪:モンキーさんの作品も、最初から色っぽかったですよ(笑)。色っぽい中にも、品がありましたよね。

モ:それにしても、『ハレンチ学園』のときの騒動はすごかったですね。僕は、そういうのはなかったですよ。PTAの抗議運動とか。「読んではいけないマンガ」に選ばれたことはありましたけど。

豪:あるじゃないですか(笑)。

モ:「読んじゃいけない」って言われたけど、抗議には誰も来なかった(笑)。

豪:当時はとにかく、新聞、週刊誌、TVと取材攻勢がすごかったんですよ。「これはたまらん、原稿持ってどこか雲隠れしよう」と、飛行機で遠くに出かけて、降りるとTVカメラが待ってる(笑)。どうやって知ったんでしょうね。  もう、僕は「社会の敵」ですからね、「公害」って言われましたから。そんなに大したことやってないんですけどね。自分でも映画なんかをを観た感触で、「ここまではいいな」「ここまでやっちゃいけないな」ってのはハッキリわかってやってましたから。これで警察が来ることはまずないなと。

モ:いや、僕のは初めっから大人向けだったからね。あの頃『MAD』というアメリカの雑誌があって、それに出てくる女性の絵とか、『PLAYBOY』に出てくる女性の写真とか、そういうのばっかり模写して練習してましたね。

豪:僕も勉強のために、写真は大いに模写しましたよ。モンキーさんは、よく女性のデッサンをされたそうですが、僕はそんなにやってないですね。石膏デッサンのほうが多い。いや、マンガから覚えたほうが多いかな。手塚先生の作品とか。じゃあ、峰不二子のモデルも当時の女性?

永井豪×モンキー・パンチ 対談
モンキー・パンチ(もんきー・ぱんち)
1937年5月26日、北海道厚岸郡に生まれる。本名・加藤一彦。1957年、加東一彦のペンネームで貸本雑誌『零』でマンガ家としてデビュー。1966年、初めてモンキー・パンチ名で『銀座旋風児』を『漫画ストーリー』に発表。翌67年、『週刊漫画アクション』創刊号から連載の『ルパン三世』が、アニメ化もあって大人気作品となる。
モ:やはりピンナップ・ガールなんですが、でも、特定の人ではないので、最初は造形も決まってませんでしたね。髪形とか固まってきたのは、かなりあとですね。ルパンもそうですよ。描き初めは顎が割れてしゃくれていて、ポパイみたいな顔してた(笑)。連載が終わる頃になって、やっと顔が決まるという(笑)。  ところで、最近はポルノの問題でマンガ家が捕まったり、麻薬か拳銃でも持ってるみたいに調べられるって聞きましたけど、同人誌の話なんですか?

豪:いえ、商業誌ですね。

モ:そうなの。『ルパン三世』が「読んではいけないマンガ」に指定されたとき、一番喜んだのはね、声優の山田康雄さんだったですね(笑)。

豪:娯楽って、そういうもんですよね。目くじら立てるほうがおかしいんで。

モ:昔はヘアはダメだったけど、今は解禁になったようだしね。

豪:「人間の自然な姿が猥褻(わいせつ)だってのはおかしい」と、わかってきたんですかね……。でも僕ら、中国に生まれたら死刑になってますよ(笑)。日本でよかった。

モ:『ルパン三世』は、海外ではアジアとヨーロッパで人気があるんだけど、永井さんのはヨーロッパ、アメリカが強いよね。

豪:そうですね。僕はやっぱりヨーロッパの映画で育ってますからね。小さい頃、フランスの映画とか山のように観ましたし。フランス映画がおしゃれな時代で、フランスの女優さんは日本の女優さんよりきれいに見えましたね。目鼻立ちがハッキリしていて、漫画みたいで。日本人だと、どちらかというと当時は平面的な顔で。

モ:僕はイタリアのほうが好きでね。フランスも観たけど。アメリカ映画は、あんまり美人はいなかったな。

豪:そうですね、ヨーロッパのほうがよかった。

モ:この間BS観てたらさ、往年の女優たちだけが出ている映画があるんですよね。でね……「もう出なくていいよ」と思った(笑)。マリリン・モンローって、あの当時で死んでよかったですな。

豪:そうですね……って、そんな!(笑)。

モ:いや、今生きていたら「もう出なくていいよ」って思うだろうし。エリザベス・テーラーだって、体重が3倍になって、もう見られないなあ。日本の女優さんもねえ、昔はきれいだったのに、という人が……(笑)。

豪:それはあんまり言わないほうが(笑)。僕が最近きれいだなあと思う人は、『マルホランド・ドライブ』のナオミ・ワッツ。それからニコール・キッドマンもいいですね。

モ:ニコール・キッドマン! いいですよね。

豪:『キューティーハニー』のアニメ化のときも、SF的な味付けを使って、なんとか変身する一瞬、ハダカにしたいなと(笑)、そこにしか頭がいかなかった(笑)。アニメーターの人も、そこのところだけやたら力が入っている(笑)。  女性の理想のボディーは、ミロのビーナスかな。一所懸命デッサンしたなあ。オッパイが、三角。あのオッパイ、僕の年代では日本人にはほとんどいなかった(笑)。

永井豪×モンキー・パンチ 対談
モ:僕は、グラマラスな体が好きで描いたというより、描きやすいから描いたというほうが正確ですね。形になるというか。昔『PLAYBOY』に『リトル・アーニー・ファニー』というマンガがあったんですけど。

豪:あ、あれはフランク・フラゼッタが描いてたんですよ。

モ:フラゼッタなの? 知らなかったなあ、そりゃ初耳だ。

豪:1回だけアメリカのサイン会で一緒になったことがあって。彼のポスター、たくさん買い込んでいたんですけど、全部にサインしてくれたんですよ。

モ:知らないうちに影響受けてたんですね……彼のほかの作品も好きでしたけど。なんというかな、「形」が好きなんですね。

豪:立体感が違いますよね。日本は、浮世絵の時代から立体感がないから。

モ:そうそう。僕もボリス・バレジョーより、フラゼッタのほうが好きですね。僕ね、画集集めるのも好きなんですよ。一時はH・R・ギーガーが好きでね。まだ日本に画集が入ってきてないときに、いっぱい買い集めてた。西武の催事場の人にも、「ギーガーの作品展をやってよ」と頼んだことがあった。

マンガとアニメのいい関係

 
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アニメを観るのはもともと大好き、さらにご自分のマンガがアニメ化され、そのアニメが大人気という共通点を持つお二人。だが意外にも、アニメ化にあたっては「自由にやってもらう」というスタンスだった。
豪:モンキーさんのマンガって、アメリカの短編アニメ、動物アニメみたいなああいう感覚がすごくあるなって思ったんですよね。『バックス・バニー』とか『ワイリー・コヨーテとロードランナー』みたいな。

モ:僕、そういうのすごく好きでね。一番好きだったのが『トムとジェリー』。

豪:なるほど。傑作が多いですよね。すると、ルパンがジェリーで、銭形がトムという形ですね(笑)。

モ:そうそう(笑)。あのワンパターンも割と好きで。どうしてもあれをつくったハンナ・バーベラさんに会いたくてね、会いに行きましたよ。二人ともすごいおじいさんでね。どちらか、もう亡くなったらしいですけどね。

豪:あ、作者はお二人なんですか?

永井豪×モンキー・パンチ 対談
モ:二人。女性っぽい名前だけど、男性。会いに行ったときは、ワーナーの本社に部屋を持っていましたよ。ものすごく大事にされていて、うらやましいなと思いました。90歳くらいなのに、自分で車を運転して来るんですよ。「大丈夫ですか?」って聞いたんですけど(笑)。

豪:僕は、影響を受けたものっていうと、「なんでも」なんですよね。アニメも出ているものは、ディズニーでもなんでも何でも観に行きましたしね。東映動画の一連のアニメも観ましたね。映画も、どちらかというと洋画のほうが多かったですけど、なんでも観ましたし、落語、マンガ、小説……なんでも。

モ:僕自身、ほかの人に影響を受けてきてるのが後でわかって、ちょっとゾッとすることもありますね。特にアニメとかね。

豪:『ルパン三世』ではアニメの演出もされているんで、余計にそうですかね?

モ:そうだねえ。それはありますよね。

豪:僕は、自分の作品のアニメ化のときは“丸投げ”に近くて。「お願いします。どうぞ!」という感じ。逆に、アニメになった作品を観て影響を受けることもありますよね。「へえ、このキャラクターでこんな話作るんだ」とか。そういうのは全部勉強ですね。設定で作り込んでいても、キャラクターは脚本家のイメージで動きますし、アニメの原画を描く人は、絵でも変化させてくれますし。

モ:アニメになると、男の顔は原作に似せて描けるんだけど、女性の顔はアニメーターの描く顔になっちゃうね。

豪:やっぱり、男は自分の好みの女性の顔が、一人一人全員にあるんですよね。だから作画監督の絵になるし、さらに原画の人の好みも入る。僕はどう変わっても、喜んで観ているだけですが。

モ:僕も同じですね。「大事な設定だけ変えなかったら、どうやってもいいよ」って感じで渡してますしね。まあ、「五右衛門に子供がいた」って設定になったら困っちゃうけどね(笑)。それ以外は、相手はプロですから任しちゃう。

豪:下手に口出しすると、相手の人の苦手な部分を突っつくことになっちゃうんで。それより、得意な点で力を発揮してもらったほうがいい。

モ:今は、日本のマンガの影響を海外が受けちゃってますよね。アメリカ映画も、日本のマンガの影響を受けてる。観ていて「あれ? これ日本の“アレ”じゃないの?」ってのがけっこうある。

豪:多いですね。何年か前、ワーナーのアニメのブース見に行ったら、アニメーターがみんな壁に日本のアニメのセル画を貼ってる。相当影響受けてるんだなと思いました。モンキーさんなんか、もう神話になってますよね。

モ:あんまり神話にはなりたくないな(笑)。

豪:とにかく、世の中に残っていくことを目指しましたから、どういう形で残っても嬉しい。『デビルマン』や『けっこう仮面』をいろんな人が描いてくれましたけど、全然抵抗なく、やっていただきました。他人には絶対描かせない人も多いようですけど、僕は全然構わない。

モ:アニメの会社に聞いたんですけど、あるマンガ家にアニメ化の話を持っていったら、声優は誰がいいとか、演出家は誰でないとダメだとか、細かい指定が来ちゃって、とてもじゃないけどできないと諦めたらしいんですよね。若いマンガ家のほうが、そのへんにこだわりを持っているみたいですね。

豪:全然ないなあ……。全然ないのも問題かもしれないけど(笑)。

モ:マンガは僕の作品って気がするけどね、アニメとか別のものになっちゃったら、僕の作品って感じはしないですね。アニメの場合、完全にユーザーになっちゃって観てますね。そのほうが楽しめるもん。


パソコンはマンガを変える?

 
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公式サイトを持つモンキー・パンチ氏(www.monkeypunch.com)に対し、パソコンはスタッフ任せの永井豪氏。だが、どちらもデジタルマンガの行方には興味津々、それぞれの持論がぶつかり合った。
豪:モンキーさん、最近はパソコンを使うというか、CGを描かれてますよね。

モ:今は、マンガを描くために特化したソフトがあるんですよね。背景の車なんかを3Dで描くと、回転してくれるんですよ。効果線もひとりでに描いてくれる。便利なことは便利ですよ。ただね、下手すると自分のタッチになってなくて、コンピュータのタッチになってることがある。豪さんは使ってるの?

豪:いやあ、覚えるのがしんどくて全然やってない(笑)。スタッフには何人かやってる人がいますから、「やって」っていうとやってくれます。最近パソコン使うマンガ家も多いですけど、まあ、道具ですからね。何で描いたかなんて、僕は気にしないですよね。うまく表現できるなら、それでいいんじゃないかと思いますね。

モ:マンガは筆で描く場合だってあるし、もちろんペンだってあるし、たまたまそれが「電子」だっただけだからね。最近は出版社も、データで原稿を送っても大丈夫になってるから、コンピュータで描いたものをデータで渡してますね。だから、佐倉(※千葉県)に住んでてもあまり困らない(笑)。むしろ、編集者が仕事場に来ないので助かる(笑)。  そういう反面、コミュニケーションがなくなっちゃう可能性はあるよね。顔を見ないで仕事ができちゃうから。だけどまあ、電話で話せればそれでいいか、というときも多いし、側に張り付かれて、描いているところを見られなくて済むし(笑)。海外でも、パソコン持って行けば描けますしね。

豪:直接パソコンで描くんですか?

永井豪×モンキー・パンチ 対談
モ:その時どきによりますね。ペンで描いたものをスキャンすることもあるし、ソフトの「下描きモード」で直接描くこともある。

豪:へえ、そんなのあるんだ。

モ:いろいろ便利ですけど、何といってもスタジオが汚くならない(笑)。消しゴムのかすもないし、トーンの切れ端も出ないから。永井さん、今アシスタントは……。

豪:常時5〜6人、全部で10人ぐらいですかね。

モ:僕は、頼むと言ってもネット経由で頼むくらいですよ。一作ごとの契約でやってもらってる。次の作品でも、うちに来てもらうんじゃなくて、自分が使っているのと同じソフトを渡して、自宅で描いてネットで送ってもらおうかなと思ってね。そうすれば、アシスタントは日本全国どこにいてもいいわけですから。

豪:それはいいかもしれない。

モ:その代わり、終わるまで顔を見ないということもありえる(笑)。それに編集者は、仕事場に来て、僕が描いてるところを見ないと安心できないみたい(笑)。だから、僕のコンピュータの前にライブ中継のカメラを置いといたことがあるんですよ、「やってますよカメラ」(笑)。あとで考えたら、録画使ってアリバイ工作もできるなと(笑)。もうやってませんけどね。

豪:僕も、後ろに編集者がいるのはダメですね。締め切りで待たせるのが嫌だから、締め切り前に渡そうとしちゃう。石ノ森先生の仕事場が、編集者がずらりと並んでいて、あれは精神衛生上よくないなと(笑)。とにかく、そういう状況にならないようにしてます。

モ:僕も、待たれるのは嫌なんだけどね……どうしてもやっちゃうんだよね(笑)。まだいいだろう、まだいいだろうと。催促の電話があっても「この声の様子だと、まだ大丈夫だな」とか。編集者の声が震えてくると「もうやばいかな」とか(笑)。そうそう、イニシャルのMってマンガ家は、原稿が遅いんだってさ。モンキー・パンチとか、××××さんとか(笑)。

豪:なるほど。……いや、なるほどじゃないですって(笑)。そういえば何年か前に、「インターネットでマンガ描かないか?」って、モンキーさんにお誘いを受けましたよね。

モ:ヨーロッパにしてもアメリカにしても、デジタルでマンガを発表しようという動きは、まだあんまりないですね。日本もぽつぽつは出てるんですけど、メジャーにはなってない。今、韓国あたりが一番力を入れているんですよ。マンガを進化させていくとデジタルマンガになるだろうと予測して、その研究に政府がお金を出してる。

豪:今から日本の紙媒体と勝負するのは難しいから、そっちの先駆者になろうと考えているんでしょうかね。

モ:それもあるでしょうね。でも、われわれも考えていたことだし、韓国に追い抜かれたら大変だよと、いろいろやってるんですけどね、まだ……。

豪:パソコン画面でマンガを見ようと言う“ニーズ”がまだないんでしょうね。少しずつは出てるんでしょうけど。

モ:これまでは、デジタルで取り込んで、それをそのまま見せようという考え方でしょ。それだとユーザーは見ないな、という気がするんですよ。本を見たほうが早いし、楽だし。だから、全く違う見せ方がないのか、と思うんですけど……。一緒に組んでくれませんか(笑)?

豪:経済的にペイするかどうか、というのが、一番の問題じゃないでしょうか。

モ:うーん。ただ、デジタルマンガが世に出れば、そこから人気が出てくる人もいるのではと。

豪:そうですね。紙の媒体では全然ダメだけど、こっちでは強いとかね。やっぱり、“最初からデジタルマンガを目指しているような人”が出てきてこそ、かな。若い人では、最初からそういう表現方法を選ぶ人が、出てくるかもしれない。

モ:そういうふうに早くならないかな、と思うんです。でも、マンガ家一人でやってても、どうにもならないんですよ。そして、それがゲーム機に載れば、チャンスが出てくると思うんです。なんとかそこへ持っていきたいと思ってるんですけどねえ……。今年あたり「デジタルマンガ協会」とかを作ろうと思うんですけど、なかなか人が集まらない。

未来のマンガ創作スタイル

 
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デジタル技術や媒体の話を越えて、話題はさらに創作技術へと移る。現在の固まったマンガ作りに対して、ベテランの二人があっと驚く斬新な創作スタイルを提案。これが、ニッポンマンガを支えてきた頭脳なのだ。
豪:デジタル化が進んでも、紙のマンガもなくならないと思いますけどね。小説も危機だなんだかんだと言われてもなくなんないですし。ただ、紙は紙でカラー化していくとか、変化していくかなと思いますね。そうなると、アメコミ式に分業化していく可能性もありますね。線はこの人、色はこの人、とか。

モ:そうなると、著作権ってどうなっちゃうのかな?

豪:共同著作権ということになるんでしょうね。フランスのマンガだと、原作者がコマまで割るじゃないですか。原作がシナリオじゃないんですよ、いわゆるネームを原作者がやってる。絵を描く人は、それを勝手に変えちゃいけないらしいんです。変えると原作者が怒る(笑)。コマ割りは変えないで、マンガ家が自分の絵柄で埋めていくんです。

モ:面白いけど……かなり窮屈だな、マンガ家としては。

豪:原作者も、もとはマンガ家なんですよ。でも絵柄が古くなったから、若いマンガ家に描かせるんですね。ネームだけでいいんだったら、僕なんかも喜んで(笑)やっちゃう。楽だし、アシスタントもいらないし(笑)。増産できるし。FAXで外国から送って描かせることもできる。そうなると、僕は日本にはいないな(笑)。

モ:それはいいやり方だな(笑)。

永井豪×モンキー・パンチ 対談
豪:その代わり、絵を描く人で全然違う作品になるから、逆に原作者の作風は広がるんですよね。昔、手塚治虫先生のネームでさいとう・たかを先生が描く、という雑誌の企画があって、そのときはさすがにギャップが大きすぎたんですけど(笑)、組み合わせによっては、充分成り立つ話だと思うんですよ。

モ:今、絵は上手いんだけどストーリーが作れない、そういう若いマンガ家がたくさんいるらしいよね。

豪:もったいない、こんなに絵が上手いのにって人がいますね。原作者として、そういう人を使えたら面白いですよね。マンガ家ってみんながみんな、手塚先生みたいにマンガの全部が上手いわけじゃないですから。映画のスタッフ探しやキャスティングみたいな感覚で、才能を集めればいいんです。

モ:マンガの未来を考えると、そういうことがあってもいいよね。

豪:それに「こういうテーマの作品だと、こういう大変な絵を描かなきゃいけない。しんどいな、やめようかな」ということもあるんですよ。でも「他人が絵を描くんだったら、やろうかな」(笑)と思える。自分の持ってないリアルな絵を使って、作品のテーマを広げるということもできる。  いつか、絵を描くのが辛くなってきたら、そういうフランス型原作者になろうと思って、もう十数年たつんですけど(笑)。

モ:僕が構成やるから、永井さん描いてくれない(笑)?

豪:コマ割りやってくれるんなら、絵入れますよ。ネームさえ遅れなければ……(笑)。

モ:原稿料とかは、折半しましょう(笑)。

豪:でも、絵を描くほうが不利だな。アシスタントも使わなきゃならないし(笑)。

モ:じゃあ、逆もアリということで(笑)。

豪:こういうコラボレーションは、今後増えるでしょうね。3Dで背景を描く人がいたら、ちゃんと名前を出して権利を認めてあげる。何もかも自分で抱え込むのは、もうよくない時代になってきているんですよ。最初から大成功はないでしょうから、実験的なところから始めましょうよ。

モ:そうだね。そういうところから、マンガ界が発展するようになればいいね。

(おわり)
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2003
(c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2003



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