豪ちゃんのハーレーざんこく笑
COMENTS  「週刊少年マガジン」(講談社)1969(昭44)40〜43,45〜52号に各2p掲載された豪ちゃんの短編小説全12話。単行本未収録だが,ほとんどのイラストは豪ちゃんのものではないと見受けられる。
第1話(69年40号)チカン撃退の巻
第2話(69年41号)“毒入りコーヒー”の巻
第3話(69年42号)悲しい初恋の巻
第4話(69年43号)“美女はこわい”の巻
第5話(69年45号)ああ初恋の巻
第6話(69年46号)“タイムトンネルの奇談”の巻
第7話(69年47号)“芸術はきびしい”の巻
第8話(69年48号)“ああ転職”の巻
第9話(69年49号)“おねしょにトンカチ”の巻
第10話(69年50号)幽霊列車の巻
第11話(69年51号)こわいわすれ物の巻
第12話(69年52号)“心臓移植の巻”
第1話
チカン撃退の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)40(9/28)号掲載

★さっそうと登場した、豪ちゃんのハ〜レ〜ざんこく笑!連載そうそうから、マガジン編集室をぶっとばそうという、危険な話でがす。★

〜れ〜、またまた豪ちゃんのページでがすよ〜!ってはりきってみたけど‥‥ば〜かで〜。マガジンの編集長、ば〜かで〜。あっしみたい、やさしい男にざんこくショーやれなんて。
 あっしがやさしいってことは、読者のみなさんがいちばん知ってるでがすよ。それから、うちのとなりのそば屋さんだって、神社の神主だって、床屋のおねんさんだって‥‥あ、そうそう、わすれちゃいけねえでがす。こないだ電車の中であったカワイコちゃんだって。
 え?電車の中であっただけのカワイコちゃんが、どうして知ってるかって。ウシシシシ〜ッ、ば〜か、ば〜か、ハヒィヒヒ〜ッ、だ。ば〜か。
の電車、ものすご〜くこんでたでがす。おされおされて、あっしはドアのそば。ギューギュー、ギューギュー、つぶされないようにするのがせいいっぱい。ウシシ〜ッ、ところが、ところが、楽しみなんてどこにでもあるんでがすね〜っ、プフッ、プフフフフ〜ッ。
 ほら、ちょいと前をごらんください。え?見えない。プフフ、ざまーみろ。なんせ電車に乗ってたの、あっしでがすからね〜。グラマーでポチャポチャッとして、すら〜りとした、あっしの理想のタイプのカワイコちゃん、いたいた、ほんとにいたんでがす。
 ところが、ところが、いたいた、もっと別の悪いのもいたんでがす。
っしゃ目撃者。目の前をすうっと一本の手が、そしてなんと、カワイコちゃんのヒップへせまる。ムムッ、チカンでがす。と思ったときにはあと一センチ。あわててその手をぐっとおさえる。もうだいじょうぶ、安心しなさい、てんで、あっしがカワイコちゃんのおしりをピタピタ。そのとたん、
「キャ〜ッ!なにすんのっ!」
 バチン!
 その男へ、カワイコちゃんの平手打ち。あざやかっ!
「いてっ!なんにもしてねえじゃねえかっ!」
「うそっ!チカン!」
 バチン!
 もう一発。あざやかっ!
「くそうっ!」てんで、やつが、それでもなんかいおうとしたから、あっしが、
「このチカンヤローメッ!ってさけぶと同時に、足を思いきりふんづけてやったでがす。もちろん「ギャ〜ッ!」ーーー。
のあと、あっしは、なく彼女をうちまで送っていったでがす。そしたら、うちじゅうで感謝感激、コロッケとくしカツのおみやげまでもらい、帰りぎわに彼女がチュッ!ぎゃひ〜っ!
 ばかばか、そんなやさしいあっしをつかまえてざんこくショーなんて、キショーッ!殺してやる。編集部のそっこらじゅうに時限爆弾しかけて、きっと殺してやる〜っ!
第2話
“毒入りコーヒー”の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)41(10/5)号掲載

☆むかしから、食べ物や飲み
物に、“毒物”を入れて、相
手を殺すのは、殺人の初歩。
これを“一服もる”というで
ガス。あぶないでかすよ。


週、極秘に計画した少年マガジン編集長暗殺作戦は、編集長ににげ出され、事実上、失敗に終わった。
 しかし、そんな失敗にもめげず、ダイナミック・プロのうできき連中は、マガジンのキッカイくん特集号一さつ半、戦利品としてぶんどることに成功した。
 以上、読者諸君に報告する‥‥でがす。
 ムハ〜ッ、カッコイ〜イ登場のしかた、ざまーみろ。
!なに?一さつ半の半てのはなんだって‥‥。あ、あれ、あれでがすかあ。  あれはですね、マガジンの編集部ってのは、いつもトイレにまんが本を置いとくんでがすよ。ぎょうぎ悪いよね〜。それで、読みながらウンチョウンチョがんばんだってさあ。ば〜〜かみてえ。だいたい、あっしのまんがなんか見たら、おなかに力がはいんねえでがすよね〜〜。ああ、あしたのジョーなら力がはいるぞ〜。ウーン。はいった、はいった。それ〜っ!チャンス、チャンス、トイレいけ〜っ!
 ‥‥フ〜ウ、さっぱりしたでがす。それでね、ひとりの編集部員がはいったとき、ペーパーがなかった。それで約十ページ、つぎの人が十四ページ、そのつぎが二ページ、この人はちょっとすくねえでがす。二ページったら一枚でがすよ〜、ベテランでがすねえ。
 結局、十四人はいって百五十二ページも使いやがった。
 ほんとにマガジンの編集部はしょうがねえでがす。そこいくと、ダイナミック・プロはすげえでがす。
イレいくと、ちゃ〜んとトイレットペーパーはあるし、じゃ口をひねると水が出る。死にたいやつにゃあガスが出る。あっしもついでにガスを出す。ホホイのホイッと。
 それからまだまだ、紙があって、えんぴつがあって、インキがあって、ぼくじゅうがあって、絵の具があって、ラジオがあってめんこがあってビー玉があって、酒井和歌子の写真があって、ぬすんできた榊原ルミの立てかんばんがあるし、海でひろってきたゴムぞうりがあるし、となりをのぞく双眼鏡までそろっているでがす。ざまーみろ。
そうそう、もっと大事なもんをわすれてたでがす。コーヒー茶わんにインスタント=コーヒーがあるでがすよ〜、うひゃひゃひゃひゃ〜っ。
 こんど、うちに来たとき出してあげるからね〜っ。
 だけど、ダイナミック・プロの規則でコーヒーを出したときは、さとうのポットと青酸カリのポットの両方を出すことになってるんでがす。イヒヒヒヒ、なむあみだぶつ。
第4話
“美女はこわい”の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)43(10/19)号掲載

☆かわいこボインコちゃんだからって、うかつに近よると、てえーへんなことになるでがすよ〜。



週、わがダイナミック・プロにCIA(アメリカ中央情報局)のスパイがはいりこみ、あっしが吸血鬼になったという、とんでもないデマを流しやがった。
 調査の結果、犯人はすぐわれたので、満月の晩に食い殺してやったでがす。ざまーみろ。
 その日から、どうもあっしは、月夜の晩になると町じゅうをうろうろしたくなるくせがついたでがす。
 ついこないだも、たったひとりでさびしい道を歩いてたときのこと‥‥。
 とつぜん、ナイロン=ストッキングで顔をつつんだ、身長一メートル六十八センチ、バスト九十六センチ、ウエスト五十六センチ、ヒップ九十八センチのまっ黒な人かげ、ジャーン!
 またしてもCIAのスパイなんて考えてるひまもなかったんでがす。あっしの鼻先にあまずっぱいにおーい、あっ、麻酔剤だっ!とたんに目の前はまっ暗やみ。
 ふと気がついて、重い頭をこんこんたたきうす目をあけてみると、まだ、あたりはまっ暗やみ。よいしょっと手足をのばそうとしたけど、ぜんぜんのびない。ハレ?てんでもういちどよいしょっと‥‥。
ショ〜ッ、のびねえでがす。どうしたんだろ?チキショッ。とたんにドスン、ガタン、ゴチーン!あっしはせまいトランクの中からおっぽり出て、またキューてんで気を失う。
 また、うっすらと意識がもどり、頭をふってると、どこからかドスのきいたかわいい声。
「もしもし、ダイナミック・プロですね。フッフッフッ、あんたがたの大将、ヤッコの豪ちゃんはわたしたちがさらった。」
 ゲッ!誘かいでがす、てえへんでがす。やっぱり、あっしはCIAに誘かいされたんでがす。
「フフフ、ざまーみろ。豪ちゃんがほしいか。」
 キショーッ、ダイナミック・プロのピンチ、もちろん、あっしの命もあぶない。こんなときにだまってられるあっしじゃねえでがす。
くっと立ち上がったあっしは、電話をかけてる声に向かって突進!得意の右ストレートをそいつのチンに!
 ところが、あっしのこぶしは宙にとまってたじたじ、たじたじ。
「フフフ、豪ちゃんお目ざめ、フフフ」
 キショーッ!ひとりじゃねえでがす。すご〜くボリュームのある連中が、しかも世界各国から集まったベテランばっかり二十数人、ジリッ、ジリッとせまってくる。
「ハレ〜ッ、どうしよ、どうしよ。」
 思わず知らず、ジタバタジタ。
「フフフ、豪ちゃんの声が聞こえたね。もし、豪ちゃんがほしかったら、キッカイくんの特集号五十さつ持ってこい。」
 ぎっ〜っ!てえへえんでがす,てえへんでがす。あっしをさらったミス=ユニバース各界代表のボインコちゃんたちは、あっしに、その五十さつ全部にサインをさせようてのにちがいない。
 そのうえぎゅっとだきしめて、「ありがと」なんていって、チュッ!なんてしようとしてるにちがいない。
 こわいよ〜っ、ウッシッシッ!
第6話
“タイムトンネルの奇談”の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)46(11/9)号掲載

☆一週間前にあっしが、きょうのあっしをなぐって気絶させた?いったいどうなってんでがす?。

ばさん、“タイム・トンネル”ってテレビ番組おぼえてるでがすか?知ってる、そう、未来へ行ったり過去へ行ったりできるトンネルの話でがすよね。
 ところがところが、なんと、こしょうひとふり、くしゃみ一発でダイナミック・プロの時間と空間が、
<こしょう×(エンゲル係数ーπ)/光の速さ+くしゃみ/0.08+アインシュタインの石頭/ノーベル平和賞>
という物理学的計算のもとにねじ曲がり、とつぜん、かべにタイム・トンネルができてしまったのだ、ジャーン!
 もちろん、冒険ずきのあっしは行くでがす。未来の国の火星のお姫さま、過去の世界の美女ナンバーワン、クレオパトラちゃん、だれにあえるかわかんねえ、リュックサックしょって、日の丸の旗持ってトンカチ持って、トンネルをくぐって行くでがす。
っしの足がトンネルへ一歩ふみ出す‥‥なんにも起こらない。つづいて第二歩。
「ウワッ!ワ〜ギャ〜、グウェ〜ッ!」
 なんて声を出したのか出さねえのか、なにか見たのか見ねえのか、気がついたら一メートル五十センチ四方ぐらいのせまいへや。
 よく見ると、きゃっ!いたいた、いたんだよー、パンツひとつのカワイコちゃんが鏡とにらめっこ。クレオパトラか火星の姫か、と思っている間に飛びこんでくる黒いかげ!
こであっしはすこしもあわてず、かねて用意のとんかちでガツン。のびたやつをポーンとおっぽりだしてやったんでがす。よろこんだのはカワイコちゃん。「きゃあ、あなたって強いのね〜チュッ。」、「そのうえカーワイーわね〜ギュッ。」てなもんで、ムフフフフウ‥‥。
 とひじょ〜にうれしかったんだけどう、火星の姫ちゃんやクレオパトラちゃんをゆめみてたあっしには、期待はずれでがした。というのは、そのせまいへやってのが過去でも未来でもなく、日本橋(東京)のデパートの婦人下着売り場の試着室だったからでがす。
 ところが、そんなこともすっかりわすれてしまった、一週間ぐらいたったある日‥‥。
っしは、ひさしぶりに新しい金太郎はらがけを買おうと思ってそのデパートへ行ったときのこと、うろうろしてる間に例の、婦人下着売り場へまよいこんでしまったんでがす。
 と、あっしの目の前を、あのときのパンツひとつのカワイコちゃんが洋服きて歩いてんでがす。しかも、手にパンツだのなんだのたくさんぶらさげて。おっ、おっ、てんで見てるとあの試着室へ。ギャハ〜ッ!すげえぞこりゃあ、うむ、おすだ、あの試着室であの日の思い出を!あのなやましいチュッギュッてやつを!てんであっしは試着室へひとっ飛び。
 ところがどうだ。その試着室の中には、あのカワイコちゃんのほかにぶさいくな男がいる。ハレ!? てんでよく見ると、中にいる男もあっしなんでがす。
 こりゃどうだ!? なんてびっくりしてる間に、中にいるほうのあっしがとんかちでガツン。すると、やつは一週間前のあっしで、いま気絶せんとしているあっしはきょうのあっしで、ウ〜ン。
第7話
“芸術はきびしい”の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)47(11/16)号掲載

★芸術的意欲にもえて、モデルを募集した豪ちゃんが、そのモデルたちに、むしられるとは‥‥。



でがすねー。エロチック、いやロマンチックな秋でがすねー。そして,秋といえば、まず、第一に芸術。あっしたちダイナミック・プロのメンバーも、まんがを芸術の領域にまで高めようと、絵画の基礎から勉強しなおすことを決心したでがす、まじめだねー。
「モデル募集 経験不問高給優遇二十前後ボイン自信有カワイイコ歴持細面談 ダイナミック・プロ」
 なーんて広告出したでがす。するてえと、来るわ来るわミニにマキシにパンタロン、ダイナミック・プロはボインのかわいこちゃんでギュ〜ギュ〜ラッシュ・アワーなみ。ムフフ。
 そうなったら、あっしたちだって男だ、芸術的意欲がわいちゃうんだなーっ。
っそく、ドアにかぎおかけて、
「ようこそ、かわいこちゃん。きょうのきみたちの仕事は、あっしたちの人体デッサンのモデルになることだ。きみ、もしくはきみのなかまが、どんなスタイルで何ないぬがされようと、いや、すっぱだかにされようと、当局はいっさい関知しないからそのつもりで。では、幸運を祈る。チャンチャ、チャッチャッチャン、チャンチャ。チャッチャッチャン‥‥。」
 てんで、じりじりつめよっていったでがす。
「きゃっ、やめてっ。」、「いやっ、そんなの。」、「うるへえ。むだな抵抗をやめて服をぬいで出てこい。」、「ひっぱっちゃ、やん。」「ムフフフだめなのよねー、もうにげられないのよねー。まずストッキングはずすのよねー、ぼく知ってんのよねー。」
ろあいを見計らって、「よーしっ、かかれ〜っ!でがす」というあっしの号令一下、ダイナミック・プロのメンバーは、いっせいにかわいこちゃんの群目がけて飛びかかった。
 と思ったとたん、ボイイ〜ンボヨヨヨ〜ン、プリン!
 てんで、あっしたちは、あの魅力的で強大でおそろしいヒップとボインにはねとばされて空中高く舞い上がっていたでがす。それですっかり形勢逆転、こんどはあっしたちが追いつめられる番。かわいこちゃんの目はらんらんとかがやき、
「うふふ、ぬいでもいいけどわたしたちだけじゃいや〜よ〜、そっちもぬがなきゃ。」
「あら、わたしたちぬぐことないわよ。」
「そうよ、わたしたちのほうが数も多いんだし、逆にむしっちゃいましょうよ、ねっ。」
「げっ!助けて。」なんてさけんでるひまもない、あっしたちはたちまちすっぱだか。
ふふ、この人、金太郎さんなんかしてるわ、かーわいいの。」
「あっそうだ、このかっこでラインダンスなんかやらせましょうよ。きっとおもしろいわ。」
「きゃーっ、それがいいわー、きゃっきゃっ。」
 てんで、あっしたちは、へやいっぱいのかわいこちゃんを前に男一ぴきなみだのラインダンス。
 芸術の秋はいいけど、現実の秋はきびしいでがすね〜。
第8話
“ああ転職”の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)48(11/23)号掲載

★あっしは、かっこいいテスト・ドライバーになりたかった。ダイナミック・プロを解散し、まんが家を廃業したでがす。ああ、それなのに‥‥かっこわりー。

リジリジリーン!
「もしもし、“オッサン自動車”のものですが、いま、人気絶好調の豪ちゃんに、ぜひともわが社のテスト・ドライバーになっていだきたいと思いまして‥‥。」
 ガーン!テスト・ドライバー、まんが家よりずうっとかっこいい職業ではないか。
 あっしのむねは喜びにふるえたでがす。あっしは、も、もちろんひきうけたでがす。
もうまんが家なんてやーめた。“キッカイくん”も、“ハーレーざんこく笑”も連載中止するでがす。ウッヒッヒッ。
 あっしは、ダイナミック・プロのやろうどもに宣言したでがす。
「やい、てめーらよく聞けーっ。あっしは現代の花形、テスト・ドライバーになったんでがすよー。かっこいいだろ、ざまーみろ、てめーらはきょうかぎりくびだ。ヒッヒッヒ。」
「それはこまるのよねー。ここを追い出されたら行くところないのよねー。おかたももみます。便所そうじもします。だから、ここにおいてちょーだい。豪ちゃんさまーっ。」
の日の空は、レース日よりというのか、雲ひとつなく晴れわたっていたでがす。
「どうもどうも、おいそがしいところを、ではさっそく着がえてもらいましょう。」
 だされたのが、ジャンパー・ルックのレーサー服と手ぶくろ。
「あれれ、これは大きいでがすよ。まあ急いで用意したんで、まにあわなかったんでがしょう。でも、ちょっとかっこわりいでがす。いーやー中身のあっしがすてきだから。それにしても、このにおいはなんでがす。ダイナミック・プロのにおいとおんなじでねーでがすか。せなかのマークは東京都のマークとにているでがすね。えっ!それにほっかむりして、このきたねえ麦わら帽かぶるんでがすか。さいきんあっしはテレビを見てねーので、テスト・ドライバーの服装も変わったでがすねー。
れではと、“オッサン自動車”の人の指さすかなたを見れば、ハーレー!おお、なんとその自動車!
「あれがわが社、新開発の自動くみ取り車バキューム・カーでございます。外観は今までのものと変わりませんが,中身は二倍はいるように‥‥あれ?豪ちゃん、そこへ行ったのかな?」
 いのちからがらダイナミック・プロへもどったあっしは,もうけっしてまんが家以外の職業につくまいと思ったでがす。
第9話
“おねしょにトンカチ”の巻

週刊少年マガジン
1969(昭44)49(12/1)号掲載

★かわいこちゃんに、もてるのもいいですが、時には、めいわくなこともあるでがすよ。

えるでがすねー、もう午前二時でがすか。やっぱりねる前にジュース二十ぱいのんだのが悪かったでがすねー。せっかく、今月になっておねしょがなおっていたのに。それにしても、あっしのママちゃんはきびしいでがすよ、こんな夜中に追い出すなんて。
 どこから聞いてきたんでがしょ、“おねしょにトンカチ”なんて。トンカチでおしりをぶっちゃうなんて、まったく、もう、まだひりひりするでがす。れれっ、また、もよおしてきたでがすよ。どーしょ、どーしょ。おやっ、あそこにあるのは公衆便所。あーよかった、でがす。
「こんばんはー、だれもいねえでがすかー。びえっ、失礼しましたでがす。女の子用だとはしらなかっらもんで。」
ー、びっくりした。白いハイヒールに、まっかなパンタロン・スーツ。ウヒヒ、かわいこちゃんでがすねー。れれっ、男の子用じゃねーか。まちがえてるのはあの子でがす。それとも‥‥プフフ、エッチだよ、あの子。男のトイレのぞきでがすね。
「あのー、ねえ、かわいこちゃん、こちらは男の子のトイレでがすが。」
「これでいいのよ。あたしはこっちの方がすきなの!あなた、なんて名まえ?」
「はあ、あっしは豪ちゃんてんでがす。」
「豪ちゃん‥‥すてきなひびきね‥‥まあ!あなたちっちゃくて、とってもかわいいわね。」
「だれでもそういいますでがす。あのー、あっし、トイレにはいりたいんでがす。もれそうなんでがすよ。」
「そんなことどうでもいいじゃない。かわいいじゃない。かわいいわねー。チュッしてあげる。」
「ご、ご好意はうれしいんでがすが‥‥あっしはいまトイレへ。そーでねーと、あっしのママちゃんに、また“おねしょにトンカチ”てのをやられるんでがす。」
っしのほっぺにチュッしようとするかわいこちゃんをはらいのけ、あっしは大きい方のトイレへかけこみ、内側からかぎをかけたでがす。
「これではいってこれねえでがしょ。のぞいちゃ、やーでがすよ。もう家に帰ってねろーっ。」
「ウフフ、冷たい豪ちゃん。でも、そのクールなところがすてき。冷たくされるほどわたしのハートはもえるのよ。出るまでここで待ってるわ。」
「ハーレー!それはねえでがす。お願いでがす。早く行ってちょうだい。」
イナミック・プロの連中が救出してくれたのは、夜がしらじら明けるころでがした。冷たい、寒いトイレの中にながくいたので、あっしは、“寒冷性夜尿症”ってやつを再発し、今夜もママちゃんに、“おねしょにトンカチ”をやられてるんでがす。もてたくねえなあ、もう‥‥。
第11話
“こわいわすれ物の巻”

週刊少年マガジン
1969(昭44)51(12/14)号掲載

☆あっしの見ている前で,ぼいんのかわいこちゃんに,ダンプカーがぶつかったでがす。やられた!

通地獄、交通戦争、こわいでがすねー。みなさんだって、たまにはぺっちゃんこにひしゃげた自動車とか、ねじまがったガードレールなんか見ることがあるでがしょ。
 もし、あの自動車に自分が乗ってたら‥‥。やーですね。こわいですねー。あ、そうそう、きみらみてえな,こきたねえ男の子だったらいいでがすよ。すこしぐらい自動車にでもぶつかったほうがいい男になるし、なんだったら死んじまったほうが世の中のためになる。
 でも‥‥かわいこちゃんだったら‥‥。
 いままでぷくんとふくらんでたバストがぺちゃん、ぷりんと出っぱってたあしりがぺこん、もしかしたら、あっしにチュッするかもしれなかった、かーわいーいくちびるが、油でよごれたエンジンにチュッ。
 やーですねー。こわいですねー。
ころが見たんでがすよ、その交通事故ってやつ。おどろいたでがすねー。あっしがぷらぷら散歩してた目の前へ、いきなりキキィ〜ッ!グワッガガ〜ッ!ものすごい音がしたと思ったら、十二トン積みはあろうかという戦車みてえなダンプカーがつっこんでくる。
 ピエッ!てんで、身の軽いあっしは十メートルぐらい飛びさがってよけたんでがす。
 ところが、あっしの後ろを歩いていたぷくんぷりんのかわいこちゃん、バストとヒップの重さにたえかねて、完全によけきれなかったんでがす。ボコンガチャンと音がして、見ると、うでにさげていたハンドバッグが飛ばされて、中身がぜんぶぶちまけられてんでがす。
も、近ごろの女の子はおっかねえでがすねー。
「ばかやろー、てめえ、いったいどこ見て運転してんだ。だいたい男の子をひくんならわかるけど、なんだい。あたいみてえなぼいんなかわいこちゃんを、え、おい、いったいどこに目をつけてんだっ!」
 すんげえたんかを、おっかねえ顔したダンプカーの運ちゃんにぽんぽんぽーん。
「見てみろ、このハンドバッグ。まだ買ったばかりなんだぞ、どうしてくれる!」
 もうすっかりどぎもをぬかれた運ちゃん、ぺこぺこぺこぺこ頭さげて、
「すいません、おじょうさん。これ、じつはうちのかあちゃんに買ってきたばっかなんですけど、持ってってください。」
なんて,かわいこちゃんのよりぐーんと高そうなハンドバッグあげちゃった。そしたら、そのかわいこちゃんは、にーこにこしてさっさと行っちゃったでがす。
ころがあっしは,だれもいなくなった道路のかたすみで、わすれ物を見つけたでがす。そのかわいこちゃんが、こわれたハンドバッグだけでなく、血まみれのうでまでわすれていったことを‥‥。
第12話
“心臓移植の巻”

週刊少年マガジン
1969(昭44)52(12/21)号掲載

☆あっしは、医学の進歩と全人類の幸福のために、かんぜんとして、“心臓移植”にとっくんだ。むずかしいことは知ってたでがす。






おしまい!
あ、かわいそうなポカ、あっしのかわいい子ねこちゃん。きみは、その短い一生を人類の幸福のためにささげた。きみはねこの天使となり、はねをはやして天国へ‥‥。
 あっしが心臓病で苦しんでいる人のために、どうしても心臓移植を成功させようと思ってから長いときが過ぎました。その間、あっしは心臓の強さとつらの皮のあつさの比例式とか、心臓にはえる毛のそり方などを勉強して、どうやら手術成功のめどが立ったのがきのうでした。
 始めっから人間というわけにはいかない。そこで、動物実験を、と、助手のジョンくん(ダイナミック・プロのメンバーだが、すぎのなえ木の移植に成功した経験がある。)をふり返った。するとジョンくん、
「豪ちゃんよ―。」
「ばか、ドクターとよぶでがす。」
「へん、わかったよ、ドクターめっ。実験はいいけど材料もねえのにどうやんだよ、へっ。」
といってるそばへ、ニャーオと一なき、あっしのかわいいポカちゃんが‥‥。
「あっ、こいつがいい、こいつが。」
の早いジョンくん、いうが早いかポカをつかまえてポカッ。かわいそうにポカは、たちまちあの世行き?
「なにするんでがす、あっしのポカを。」
「へん、見りゃわかるだろ、実験材料じゃねえかよ。」
「だけど、ポカは‥‥。」
「うるへえ、ぱっと手術して心臓とっかえりゃ生き返るじゃねえか、へっ。」
 あっそうか、さすがはわが助手。と、さっそく手術にとりかかったでがす。
こぎり、でば、つめ切り。」
室内は、カチャカチャと手術道具がふれあう音とあっしの声だけ。やがて、手術は大づめ、ついにポカの心臓をとりはずした‥‥まではよかったんですが、なんと、そのあとに入れる生きている心臓は用意してなかったんでがす。
「ああ絶望でがす。ポカは死ぬ。」
 なげいているあっしの目の前に、真新しい心臓がつき出された。
「なくな、ばか。ほれ見ろ、まだとりたてのほやほや湯げがたってぴくぴくしてらあ。」
と、たのもしいジョンくんの声。喜びいさんであっしは心臓移植の本番へ。
「糸、のり、セロハンテープ。」
こし大きすぎたけど、移植された心臓は、力強く血液をポカの体内へ‥‥。と思ったのはいっしゅん、ふたたびポカはあの世行き。するとジョンくん、
「まずかったかな、やっぱり。出前持ってきたそば屋の心臓ひきちぎってきたんだけど。」
 あっしはびっくりしてどなりつけた。
「ばかやろー、ねこの心臓移植になんで人間の心臓なんか持ってくるんでがすか。」
 おお、かわいそうなポカ‥‥。
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