永井豪氏のエッセイ「豪氏力研究所」連載開始に先だって、まず今週は作家・夢枕獏氏との対談をテキスト+動画でお届けいたします。夢枕氏は永井豪氏の大ファンであるとともに、日本SF作家クラブを通じて長年の友人でもあり、お互いの作品世界を誰よりも理解し合っている間柄。対談は予定時間をオーバーして大いに盛り上がりました。
題字/永井豪 動画撮影・編集/水谷明希 取材協力/ダ・ヴィンチ編集部、マガジンZ編集部 |
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永井豪(以下、豪):三十数年ですね。僕はギャグマンガ家としてデビューしちゃったでしょ。でもどうしてもストーリーマンガが描きたくて、『週刊少年マガジン』で『鬼─2889年の反乱─』という100ページの読み切りを描かせてもらいました。その後、ストーリーマンガ初連載が『魔王ダンテ』なんです。『週刊ぼくらマガジン』という週刊誌で、第1回はやっぱり100ページ(笑)。 獏:『魔王ダンテ』には、のちに『デビルマン』や『バイオレンスジャック』に発展していく、いろんな要素がちりばめられていますね。これこそ、永井豪という作家の本質だと。
獏:その作品を一から再スタートさせたのは、何かあるんですか? 豪:CSでアニメ化の話があって、僕のほうからマンガも再開したいと言い出したんです。『週刊ぼくらマガジン』が休刊になって連載が中断していたので、ずっと気になっていましたから。でも途中から描くわけにもいかないので、一から描き直そうと──。 面白いのは、今『魔王ダンテ』を再び描いていると、若い頃の激しさが甦るんですね。 獏:そういうことはありますね。未完のままで終わった作品は、書き手にとっては財産なんですね。 豪:獏さんの場合だと『幻獣変化』がそうでしょ? 僕が、どうして続きをやらないのって言ってたら、続きが出てきた。 獏:あれは僕にとって最初の新書版書き下ろしだったのに、再開するまでに十数年かかったんですよ。 |
豪:そうですね。いろいろ理屈つけると、手塚(治虫)先生などの先人に“正義”を描かれちゃってますから、逆を行かないと自分のマンガがこの先ないような気がした部分もあるんですけど。でも、そういうこと以前に、自分自身の内面に持っていた深いところでの“闇”みたいなものもあったのかな、と思うんですね。きっかけはどうであれ、自分にそういう要素がすごくあったんだと思います(笑)。 ──で、当初はちゃんとしたイメージもなく描いていたんですけれども、“鬼”って描き出すと“哀しみ”のほうが出てくるんですよね。 獏:あ、そうですね。 豪:結局“鬼”って、歴史の中で抹殺された、虐げられた人々なんじゃないかな、という思いがだんだん強くなってきて……。正義なんつーのはかえって欺瞞(ぎまん)じゃないかとか、逆転したほうが面白いなとか思えてきて、“悪”と言われたモノを見つめ直してみたんです。 キャラクター的にも豊富でいいんじゃないかな、とも思ったんですよ。天使とかみんな同じ様な姿してるけど、悪魔ってバラエティーに富んでいるしね(笑)。
豪:でも、ゴジラだって結構辛いと思うんですよね(笑)。自分は散歩しているだけなのに、戦車は来るわナニは来るわで。「痛い目にあわせやがって!」って怒って暴れたくもなるだろうなと(笑)。 それに、歴史に名を残して為政者や勝利者となった人たちより、滅ぼされたほうが断然多いと思うんですよ。 獏:多いしね……、勝ったほうより負けたほうのほうが、描くのに面白いですよね。 格闘技の試合見てても、勝ったほうより負けたほうに感情移入するケースが多いですよね。こっちが見ていて「あーっ……!」と思うのは、こんなに苦労したんだから勝たせてやりたいな、と思っている選手が負けた時ですよ。こっちも一緒に、気持ちがぐちゃぐちゃになることがある。 豪:歴史上の人物でも、人気が高い人って、やっぱり……。 獏:悲劇性! 豪:──がありますよね。義経にしても、織田信長にしても、坂本龍馬にしても。 |
豪:昔のようには描けないけど、今は月産150枚平均かな。今の『魔王ダンテ』は6月号で60ページ描いちゃったけど。 獏:僕は400字詰め原稿用紙で書くんですけど、昔は750枚くらい書いていましたね。ふんばりが効きましたから。今は、200枚を切ることはないけど多くても300枚だな。 豪:僕は最高で700枚です。一度きりだったけれど。その頃は週160ページという状況が何年か続いていましたね。時々100を切ると「しめた!」と遊びにいってしまったり(笑)。 獏:そりゃすごい! 僕はもう月産500枚はやりたくないなあ。 豪:小説のほうがすごいじゃないですか。独りでやられてますし。マンガの場合はごまかせるからいいんですよ。 豪:ごまかし方がいろいろあるんですよ、マンガは。見開きで大きく描くとか、ベタを多用するとか、自分の描く所は減らしてアシスタントが描く所を増やすとか(笑)。 獏:締め切りは、遅れません? 豪:僕は、締め切りに遅れたことはほとんどないんです。編集者が原稿を取りに来たときには「どうぞ」って。編集者からプレッシャーを浴びるのは嫌だから、自分でプレッシャーをかけるんです。 獏:えーっ! 僕は編集者がいないと駄目な時期があったんです。編集者が横で待っているとか。ファックスができてからは、いないほうがいいとわかりましたけど。今でも、最初に約束した期限に間に合うことは、まずないですね(笑)。それにひきかえ、ちゃんと締め切りを守っている人もいるんだなあ……。 |
獏:不思議な話ですよね、『デビルマン』て。大勢にリメイクされて。僕の記憶では、今までそういう例って無いですよ。 豪:そういうことをやらせる人がいないからかな。僕なんかは、手塚先生がやらせてくれたら喜んで描いたと思うんですよ(笑)。 獏:編集者の企画でというよりは、描きたがっている人が大勢いたから出来上がった企画だろうと思うんですよね。 豪:ところで、獏さんの『闇刈り師』が『マガジンZ』でまたマンガ化されていますけど、主人公の九十九乱蔵って、身長いくつでしたっけ? 豪:獏さんの小説、最初っからマンガ化しやすいなあと思ってたんですよ(笑)。マンガ向きだなあと。 獏:木村(周司)さんがやってるデフォルメ感覚を見て、僕の方でも「ああ、こうやってもいいんだな」と思ったことがありますね。乱蔵の首をすごく太くしたところとか。僕も「胸の下で雨宿りができるくらい(笑)大胸筋が発達している」って書いたりしてるんですけど。 木村さんが絵にした乱蔵を見て、僕も乱蔵というキャラクターを一回白紙の状態にして、ゼロから肉体のすごさをデフォルメし直せるかな、でかい男とお化けのような筋肉を文章で書き直せるかな、と考えましたね。 豪:僕も、獏さんの小説をマンガ化したいなあ。『幻獣変化』をやらせてよ。 豪:ええっ! 嬉しいなあ。何です? 獏:『バイオレンスジャック』なんだけど、敵役のスラムキングを主人公にして、暗いエピソードを(笑)書きたいんです。それをまた、豪先生がマンガ化してくださいよ。1年くらい待ってくれれば、仕事の隙間を見つけて書きますから! 豪:じゃあ、お願いします!(笑) |
『豪氏力研究所』第0回 「永井豪 × 夢枕獏 対談」/おわり (c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002 (c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2002 |
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