永井豪 永井豪エッセイ「豪氏力研究所」第0回 夢枕獏

永井豪氏のエッセイ「豪氏力研究所」連載開始に先だって、まず今週は作家・夢枕獏氏との対談をテキスト+動画でお届けいたします。夢枕氏は永井豪氏の大ファンであるとともに、日本SF作家クラブを通じて長年の友人でもあり、お互いの作品世界を誰よりも理解し合っている間柄。対談は予定時間をオーバーして大いに盛り上がりました。
題字/永井豪
動画撮影・編集/水谷明希
取材協力/ダ・ヴィンチ編集部、マガジンZ編集部


祝! 『魔王ダンテ』三十数年振りの復活

 
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永井豪氏は、2002年から三十数年振りに『魔王ダンテ』の執筆を『マガジンZ』(講談社)で再開。同誌ではそれに先だって、夢枕獏氏原作の『闇狩り師』(作画:木村周司氏)が連載されているため、まず二人の話はそこから始まった。
夢枕獏(以下、獏):豪先生の『魔王ダンテ』が再スタートすると聞いて、僕は大喜びしたんです。オリジナル版から何年くらい経ちましたか?

永井豪(以下、豪):三十数年ですね。僕はギャグマンガ家としてデビューしちゃったでしょ。でもどうしてもストーリーマンガが描きたくて、『週刊少年マガジン』で『鬼─2889年の反乱─』という100ページの読み切りを描かせてもらいました。その後、ストーリーマンガ初連載が『魔王ダンテ』なんです。『週刊ぼくらマガジン』という週刊誌で、第1回はやっぱり100ページ(笑)。

獏:『魔王ダンテ』には、のちに『デビルマン』や『バイオレンスジャック』に発展していく、いろんな要素がちりばめられていますね。これこそ、永井豪という作家の本質だと。

永井豪×夢枕獏 対談
永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。
豪:確かにそうですね。悪魔の額に主人公が埋め込まれるという設定は『マジンガーZ』にもつながりますね。これが僕の原点だというのは間違いないと思います。

獏:その作品を一から再スタートさせたのは、何かあるんですか?

豪:CSでアニメ化の話があって、僕のほうからマンガも再開したいと言い出したんです。『週刊ぼくらマガジン』が休刊になって連載が中断していたので、ずっと気になっていましたから。でも途中から描くわけにもいかないので、一から描き直そうと──。
 面白いのは、今『魔王ダンテ』を再び描いていると、若い頃の激しさが甦るんですね。

獏:そういうことはありますね。未完のままで終わった作品は、書き手にとっては財産なんですね。

豪:獏さんの場合だと『幻獣変化』がそうでしょ? 僕が、どうして続きをやらないのって言ってたら、続きが出てきた。

獏:あれは僕にとって最初の新書版書き下ろしだったのに、再開するまでに十数年かかったんですよ。


鬼、悪魔、悪しきものの魅力

 
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二人に共通しているのは、鬼、悪魔、魔物といった、本来物語の中では敵役となる存在を主人公に据えた作品が多いということ。なぜ二人は、正義のヒーローではなく、彼ら闇の存在たちに魅力を感じているのだろうか?
獏:豪先生は、“鬼”にいっとき──というか、今もそうかもしれないけど──こだわっていた時期がありますよね。

豪:そうですね。いろいろ理屈つけると、手塚(治虫)先生などの先人に“正義”を描かれちゃってますから、逆を行かないと自分のマンガがこの先ないような気がした部分もあるんですけど。でも、そういうこと以前に、自分自身の内面に持っていた深いところでの“闇”みたいなものもあったのかな、と思うんですね。きっかけはどうであれ、自分にそういう要素がすごくあったんだと思います(笑)。
 ──で、当初はちゃんとしたイメージもなく描いていたんですけれども、“鬼”って描き出すと“哀しみ”のほうが出てくるんですよね。

獏:あ、そうですね。

豪:結局“鬼”って、歴史の中で抹殺された、虐げられた人々なんじゃないかな、という思いがだんだん強くなってきて……。正義なんつーのはかえって欺瞞(ぎまん)じゃないかとか、逆転したほうが面白いなとか思えてきて、“悪”と言われたモノを見つめ直してみたんです。
 キャラクター的にも豊富でいいんじゃないかな、とも思ったんですよ。天使とかみんな同じ様な姿してるけど、悪魔ってバラエティーに富んでいるしね(笑)。

永井豪×夢枕獏 対談
夢枕獏(ゆめまくら・ばく)
1951年1月1日、神奈川県小田原市に生まれる。'77年『カエルの死』でデビュー。以後「キマイラ・シリーズ」「サイコダイバー・シリーズ」「闇狩り師・シリーズ」など、独自のバイオレンス感覚あふれる伝奇ロマンシリーズを次々とヒットさせる。近著では、日本に安倍晴明ブームを巻き起こした「陰陽師シリーズ」が有名。
獏:本当に、鬼とか悪魔とか、そういうものを描こうとすると、哀しい存在にならざるをえないですよね。そうじゃないと、ただの怪獣になっちゃう。僕もやってみて気がついたんですけど。

豪:でも、ゴジラだって結構辛いと思うんですよね(笑)。自分は散歩しているだけなのに、戦車は来るわナニは来るわで。「痛い目にあわせやがって!」って怒って暴れたくもなるだろうなと(笑)。
 それに、歴史に名を残して為政者や勝利者となった人たちより、滅ぼされたほうが断然多いと思うんですよ。

獏:多いしね……、勝ったほうより負けたほうのほうが、描くのに面白いですよね。
 格闘技の試合見てても、勝ったほうより負けたほうに感情移入するケースが多いですよね。こっちが見ていて「あーっ……!」と思うのは、こんなに苦労したんだから勝たせてやりたいな、と思っている選手が負けた時ですよ。こっちも一緒に、気持ちがぐちゃぐちゃになることがある。

豪:歴史上の人物でも、人気が高い人って、やっぱり……。

獏:悲劇性!

豪:──がありますよね。義経にしても、織田信長にしても、坂本龍馬にしても。


マンガ家vs.小説家、月産何百枚が限界か?

 
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永井豪氏と夢枕獏氏は、作品のクオリティーはもちろん、非常識な生産量で同業者に呆れられている。そして、長編作品は全てと言っていいほど完結していない。だから二人の読者は、二人の健康と長寿を祈るしかないのだが──。
獏:ところで豪先生は、月産どれくらい描くんですか?

豪:昔のようには描けないけど、今は月産150枚平均かな。今の『魔王ダンテ』は6月号で60ページ描いちゃったけど。

獏:僕は400字詰め原稿用紙で書くんですけど、昔は750枚くらい書いていましたね。ふんばりが効きましたから。今は、200枚を切ることはないけど多くても300枚だな。

豪:僕は最高で700枚です。一度きりだったけれど。その頃は週160ページという状況が何年か続いていましたね。時々100を切ると「しめた!」と遊びにいってしまったり(笑)。

獏:そりゃすごい! 僕はもう月産500枚はやりたくないなあ。

豪:小説のほうがすごいじゃないですか。独りでやられてますし。マンガの場合はごまかせるからいいんですよ。

永井豪×夢枕獏 対談
獏:いやいや、マンガは1枚の情報量が小説よりも多いでしょ。マンガのほうが大変だと思いますよ。

豪:ごまかし方がいろいろあるんですよ、マンガは。見開きで大きく描くとか、ベタを多用するとか、自分の描く所は減らしてアシスタントが描く所を増やすとか(笑)。

獏:締め切りは、遅れません?

豪:僕は、締め切りに遅れたことはほとんどないんです。編集者が原稿を取りに来たときには「どうぞ」って。編集者からプレッシャーを浴びるのは嫌だから、自分でプレッシャーをかけるんです。

獏:えーっ! 僕は編集者がいないと駄目な時期があったんです。編集者が横で待っているとか。ファックスができてからは、いないほうがいいとわかりましたけど。今でも、最初に約束した期限に間に合うことは、まずないですね(笑)。それにひきかえ、ちゃんと締め切りを守っている人もいるんだなあ……。


原作提供の楽しみとは?

 
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数多くの小説がマンガ化されている夢枕獏氏。永井豪氏も、多くの若いマンガ家・イラストレーターによる『デビルマン』のリメイクシリーズ『ネオデビルマン』と『デビルマンイラストレーションズ』が出版されている。創作者であると同時に、原作者としての喜びとは?
豪:ネオデビルマン』は、もう自由にやっていただきました。誰かが『デビルマン』を描くと、デビルマンというキャラクターをどんなふうに見ていたのかなって、その人の感性が見えてくるじゃないですか。何を感じて、何を面白がっていたのか、どういうシーンを好きだったのかとか──。そういうものが見えてくるのが面白いですね。予想もつかないようなモノを描いてくれた人もいたし。

獏:不思議な話ですよね、『デビルマン』て。大勢にリメイクされて。僕の記憶では、今までそういう例って無いですよ。

豪:そういうことをやらせる人がいないからかな。僕なんかは、手塚先生がやらせてくれたら喜んで描いたと思うんですよ(笑)。

獏:編集者の企画でというよりは、描きたがっている人が大勢いたから出来上がった企画だろうと思うんですよね。

豪:ところで、獏さんの『闇刈り師』が『マガジンZ』でまたマンガ化されていますけど、主人公の九十九乱蔵って、身長いくつでしたっけ?

永井豪×夢枕獏 対談
獏:身長2メートル、体重145キロ!(笑)。僕、必ず身長・体重を入れるんですよね。“戦う系”のキャラクターって。

豪:獏さんの小説、最初っからマンガ化しやすいなあと思ってたんですよ(笑)。マンガ向きだなあと。

獏:木村(周司)さんがやってるデフォルメ感覚を見て、僕の方でも「ああ、こうやってもいいんだな」と思ったことがありますね。乱蔵の首をすごく太くしたところとか。僕も「胸の下で雨宿りができるくらい(笑)大胸筋が発達している」って書いたりしてるんですけど。
 木村さんが絵にした乱蔵を見て、僕も乱蔵というキャラクターを一回白紙の状態にして、ゼロから肉体のすごさをデフォルメし直せるかな、でかい男とお化けのような筋肉を文章で書き直せるかな、と考えましたね。

豪:僕も、獏さんの小説をマンガ化したいなあ。『幻獣変化』をやらせてよ。

永井豪×夢枕獏 対談
獏:もちろんOKです。実は、僕も豪先生のマンガを小説でやってみたいんですよ。

豪:ええっ! 嬉しいなあ。何です?

獏:『バイオレンスジャック』なんだけど、敵役のスラムキングを主人公にして、暗いエピソードを(笑)書きたいんです。それをまた、豪先生がマンガ化してくださいよ。1年くらい待ってくれれば、仕事の隙間を見つけて書きますから!

豪:じゃあ、お願いします!(笑)


  『豪氏力研究所』第0回
「永井豪 × 夢枕獏 対談」/おわり


(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002
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豪氏力研究所  りてる


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