永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

僕の“女性のハダカ体験” その頃の『キネマ旬報』には、必ず1本、映画のシナリオが載っていた。僕はそのシ ナリオをむさぼるように読み、添えられている写真の、ほんの1〜2枚だけを頼りに、 映画の場面をあれこれ想像して楽しんでいた。今思えばそれが、イメージするという マンガ家に必要な行為にとって、どれだけ勉強になったか。


思い出のマルティーヌ・キャロルさん
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左から永井豪氏、弟、中学の同級生、3番目の兄。
『ハレンチ学園』を描いてからというもの、僕は“エッチなマンガを描く人”だということになっているようだ。実際にその後も『けっこう仮面』や『まぼろしパンティ』など、ハダカの女性が主人公のマンガもいくつか、いや、たくさん描いているから、言い逃れはできないか。でも描いてる本人は、別にコーフンしながら描いているわけじゃない。「女の人の体って綺麗だなあ」という気持ちなのだ。本当に。だって綺麗なものは、描きたくなるでしょう。

 僕が最初に女性のハダカに興味を持ったのは、小学校3年生くらいだろうか。前に一番上の兄貴が映画好きだったと書いたけれど、僕はその頃しょっちゅうその兄貴の部屋に行っては、『キネマ旬報』などの映画の雑誌を眺めていた。するとその中には、外国の女優さんのハダカの写真が載っていた。僕は女性のハダカを見ては、「なんて綺麗なんだろう」と溜息をついて、そしてなぜかドキドキした。小学生だから、男と女のことはわからない。「どうしてハダカでいるんだろう? この人は」と不思議に思いながらも、記事を一所懸命読んだりしていた。

 当時は外国映画といえばフランス映画が多かった。今と違って、脱ぐ女優さんはほとんどいなくて、一部の限られた女優さんがいろんな映画でハダカになっていた。中でもマルティーヌ・キャロルさんという女優さんが、脱ぐ美人女優として有名だった。ブリジット・バルドーとかが現れる、ちょっと前のことだ。『ボルジア家の毒薬』('52)では、仮面をつけて妖しく男を誘ったり、『浮気なカロリーヌ』('53)では、大きな貝殻を模したお風呂に色っぽい格好で入っていたり。といっても、記事を読んで写真を見ただけで、映画を見た訳じゃない。それどころか、実は今でも見ていない。

 その頃の『キネマ旬報』には、必ず1本、映画のシナリオが載っていた。僕はそのシナリオをむさぼるように読み、添えられている写真の、ほんの1〜2枚だけを頼りに、映画の場面をあれこれ想像して楽しんでいた。今思えばそれが、イメージするというマンガ家に必要な行為にとって、どれだけ勉強になったか。特にハダカの写真でも載っていようものなら、そのワンカットだけで勝手にイメージをふくらませるものだから、僕が想像で見た映画は、本物よりもはるかにすごい内容だった。


カッコいい女の子しか描きたくない
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中学3年生、修学旅行先の京都で。
 小学校のとき、東京の大塚というところに住んでいたのだが、その頃にはもう自分でお小遣いを持って、てくてく歩いて洋画館を回ったりしていた。初めて映画でヌードを見たのは、中学校1年生のとき。『女は一回勝負する』('57)というミレーヌ・ドモンジョ主演のモノクロ映画で、普通のサスペンス映画だと思って気軽に見に行ったのだ。映画を見ていると、彼女が夜の海からヨットによじ上るシーンになった。そして、ぐいっとおへそのあたりまで彼女が体を持ち上げたとき、その上半身は何とハダカだったのだ。見えたのは一瞬だけだった。でも、初めて動いている女性のハダカを見たインパクトで、「わーっ!」と目玉が飛び出た。その場面は、映画館を出てからも、僕の脳裏に焼き付いて離れなかった。

 翌日学校へ行ったら、同級生でやっぱり見に行っていたヤツがいて、いかにそのシーンがすごかったかを自慢していた。でも僕は、(オレだって見たんだぜ、ふっふっふ)と思いながらも、そのことは黙っていた。そのときのドキドキした気持ちを、自分の中にずっとしまっておきたかった。口に出したら気が済んでしまう、それが怖かったのだ。僕はそうやって、一人であれこれとイメージを熟成させる性格だった。

 でも、イメージをふくらませすぎるとよくないこともある。ある日、映画館で大映の『透明人間と蠅男』('57)という映画の予告編を見た。そうしたらなんと、寝ているハダカの女性のオッパイの上を、小さな人間がタタタタッと走り回る場面があるではないか。これはもう、何としても見なければと思った。もちろん蠅男が見たいんじゃなくて、オッパイが見たいのだ。当時その映画は18禁だったので、何年もたって大人になってから、念願叶って見ることができたのだが、なんとつまらない映画だろうと心底ガッカリした。オッパイが出て来たのも、ほとんどその一瞬だけだったし。

 今の若い人には、当時の僕のこんな気持ちは、想像もつかないだろう。今は週刊誌を見てもマンガを見ても、ハダカだらけだ。まあマンガについては、僕にも責任があるかもしれないけれど。映画だって、ヌードを見るどころか、アダルトビデオなんていうものまである。うらやましいなと思う反面、今の子供はかわいそうだなとも思う。だって、ハダカがあふれ返っているせいで、「妄想する楽しみ」がないのだから。特にマンガ家を目指す人たちにとっては、どんどん妄想を広げる訓練は、とても大事だと思うのだ。だからときどき、昔みたいにハダカの規制は厳しいほうがいいのかな、と思ったりもする。

 というわけで、僕が初めて見た女性のハダカは、西洋人の女優さんのハダカだ。今の日本人の女の子は、ずいぶん脚が長くなったけど、僕の同年代の女の子は、みんな脚が短かった。彼女たちには失礼な話だけど、どうして西洋人と違うんだろう、スタイル悪いなあ、といつも不満だった。だから、マンガを描くときは、絶対にスタイルの悪い女の子は描かないぞと決めていた。僕がマンガで描く女性は、西洋人体型ですねとよく言われる。なぜそうなのかと考えると、やはり最初に見たのが西洋人の女性のハダカで、その美しいスタイルへの憧れがあるからなのだろう。

<第5回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002
(c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2002



永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明かしポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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