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高校2年生のとき。バス通学の車中で。
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昔から僕は、時間があると、遊びで自分のマンガのキャラクターを使って、いたずら描きをする癖があった。たとえば男のキャラクターを女にしてみたり、逆をやってみたり。あるいは「マジンガーZが人間だったら」と考えて見たり。レディーは、デビルマンのデザイン的な要素を使って女の子にしたら、色っぽくて可愛いくなるかなと思って遊んでみたものだ。そう、これは僕にとってあくまでも“遊び”なのだ。だけど、そうやっていたらまた全然違った顔になるので、「あ、これはまた別の性格のキャラクターだな」という風に思えてきて、やがて自然に、新しいキャラクターに育っていったりする。
それがわかってからは、新しいキャラクターを作るのに詰まったときなどに、意識的に自分の持っているキャラクターをデコレーションしてみるようになった。おなじみのキャラクターの顔に、ヒゲを描くとか目を大きくするとかの、ちょっとしたデコレーションを加えてみたり。また、いつもの扮装を変えてみたり、顔を描いている途中でパーツの形を変えてみたり。“ドクター・ポチ”というキャラクターがいるが、彼も実は、もとは“冷奴”なのだ。よく見ていただくと、どういう過程をへて冷奴がポチになったか、おわかりになると思う。やってみて失敗することもある。「けっこう仮面を男にしたらどうなるだろう?」と思って、試してみたことがあるが、さすがにこれはダメだった。
ゼロから新しいキャラクターを作ることも多いのだけれど、こういう“遊び”の中から生まれてきたキャラクターも数多い。よく考えてみると、僕はもともと純粋に絵を描くことが好きなのだ。仕事が終わって自宅に帰っても、ヒマがあると自分の部屋にこもって、スケッチブックを広げて、絵を描いて遊んでいる。これは僕にとって、本当に楽しい時間なのだ。毎年お正月には、静養のためにハワイに行って羽根を伸ばすことにしているが、そのときも必ずスケッチブックを持っていって、早起きしてはホテルの部屋で絵を描いたりしている。「それで静養になるんですか?」と言う人もいるけれども、僕は手元にスケッチブックがないと、何か落ち着かないのだ。
さらに、いたずら描きが好きだ。これはもう病気かもしれない。何年か前に香港に行ったとき、旅行の記念にと油絵を買った。夕日が香港の海に沈んでいく風景を描いた、美しい絵だ。帰ってしばらくは壁に飾って眺めていたが、やがてだんだん飽きてきた。すると無性にいたずら描きをしたくなり、大きな夕日の真ん中に、いつもサインで描く自分の顔を描いてしまった。この絵は現在、会社の会議室に飾ってある。また、ある著名なイラストレーターの方から画集をいただいたときのこと。どれも素晴らしい風景画なのだが、見ているうちにだんだん悪い虫が疼きだした。そして僕はついに我慢できずに、その全部の絵の中に冷奴を描き入れてしまった。しかも、お尻をペロンと出しているヤツとかをだ。それだけではなく、「このほうがいい絵になったでしょ」などと他人に見せたりもした。なんてヒドイことをするのだろう。
なんで僕はこうも、絵を描くことが好きなんだろうか。でも、そのお陰で今までマンガ家を続けて来られたのだから、まあいいのかな。
<第6回/おわり>
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002
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