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『少年マガジン』と違って『少年ジャンプ』では、編集者からタブーだからダメだと言われたことはなかった。それは新雑誌らしい進取の気性というより、後発の苦しい作家事情のため、そこまで考えていられなかった、というのが正直な所だろう。ただ、1回だけ描き直しを求められたことがあった。『ハレンチ学園』の記念すべき第1話めとなる読み切りでのことだ。登場する先生の一人を、僕は最初、下半身網タイツのハイヒール姿に描いた。この人物が気持ち悪すぎるので、何とかしてくれと言われたのだ。確かに網タイツの股間はモッコリしているし、タイツの網目からはすね毛がはみ出し、しかもハイヒールを履いているのだから、気持ち悪い。でもそこが面白いのだからと僕は抵抗したが、「編集長がどうしてもと言うんだよ、頼む頼む頼む!」と拝み倒されて、やむなく描き直すことにした。
僕はその人物を、フンドシに裸足という格好にすることにしたが、どうも面白くない。それでフンドシに「丸越デパート」とイタズラ書きした。もちろん三越デパートのパロディーだ。さらに、ご丁寧にCMソングの替え歌まで歌わせた。これが、丸越先生であることはいうまでもない。丸越先生のこの異様な格好は、妥協の中、精一杯の工夫から生まれたのだ。これにはさらに後日談がある。『ハレンチ学園』の連載が終わってかなりたってから、僕が新潟に行った時のこと。僕はある駅前のビルを指して、思わず「あ──っ!!」と声を上げた。なんと、駅前に「丸越デパート」という名前のデパートが、実際にあるではないか。「丸越デパートって、本当にあるの?」「昔からありますよ」「……」。よく本物の丸越デパートから、苦情が来なかったものだ。
さて、『ハレンチ学園』は、最初はそんなにエッチなマンガでもなかったのだが、ある時、ちょっとエッチな内容だった回に、読者が編集部に文句を言ってきたことがあった。「ハハーン、狙い目はココだな」と思った僕は、さらにエッチ度をエスカレートさせた。読者は大喜びで、人気はどんどん急上昇。そしてその一方で、ふと気がつくと、いつの間にか抗議の声がかなり大きくなっていた。ある日担当編集者がやってきて、「なんか、『ジャンプ』の発売を禁止しろとか言って来てるよ」と言う。「えー? どうして?」と聞くと、エッチなのがいけないらしい、とのこと。そんなバカな話はないと思ったので、「じゃ、もっとやりましょうよ」と言ったら、担当者も「やろうやろう」とノってきた。彼もこの時はまだ余裕があったのだ。
だが、ついに『少年ジャンプ』編集部に、マスコミの取材が来るようになった。つまり、『ハレンチ学園』の存在が社会問題化していたのだ。世間の風当たりの強さに腰が引けたのか、担当者が急に「エッチ路線をやめよう」と言い出した。僕は、怒った。前にも書いたけれど、僕はマンガを「命と引き換え」「死んでも作品を残す」という覚悟で描いている。どんなにマンガが問題視されても、死刑になることはないだろう、殺されなきゃいいや、と真剣に思っていた。騒ぎになればなるほど、人の記憶に残る。それに読者は、『ハレンチ学園』を強烈に支持してくれていた。だから僕は、路線変更するつもりは全くなかった。どんどん描いた。“『ハレンチ学園』バッシング”は、さらに大きくなっていった。
<第20回/おわり>
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002
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