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『ハレンチ学園』騒動(3) 今や毎日のように、教師たちの不祥事が新聞を賑わせている。特に、女子生徒に対するセクハラ事件が多い。その次に多いのが、生徒に暴力を振るったというニュースだ。でも、こういう事件が昔はなかったかというと、そんなことはない。実はこういうことは昔からあって、表沙汰にならなかっただけなのだ。


教師たちが攻撃した理由
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『ハレンチ学園』大ヒット中に、
雑誌の企画で“コスプレ”。
 学校の教師たちが『ハレンチ学園』を激しく攻撃した理由、それは単純に「エッチで子供の教育上よくないから」ではない。僕にはそう思えて仕方がない。じゃあどういう理由なのか。実は「とんでもない教師がたくさん出てくるから」じゃないだろうか。では、とんでもない教師を描かれて、なぜ教師たちは怒ったのか。

 一つには、「自分たちに対する侮辱だ!」と受け取ったことがあるだろう。当時は教師という職業には、偉い人というイメージがあった。だからまだ権威があったし、尊敬もされていた。なのに僕は『ハレンチ学園』の中で、教師に原始人のような毛皮を着せ、お尻を丸出しにさせて、男なのに「オホホ」と笑わせたりした。そうやって僕は、教師のイメージを完全に破壊したから、教師を道化にしやがって、と怒ったのだ。

 そしてもう一つ、もっと深い理由も考えられる。『ハレンチ学園』の無茶苦茶な教師たちは、女子生徒に今で言うセクハラをしたり、ひどい暴力を振るったりする。これを見た教師たちは、「せっかく隠していた正体をバラされている!」という恐怖を感じたのではないだろうか。僕はどうも、こっちの理由のほうが大きいような気がする。もちろん、教師たち自身が、その理由を自分で意識していたかどうかはわからない。本能的な、無意識の恐怖だったかもしれない。

 今や毎日のように、教師たちの不祥事が新聞を賑わせている。特に、女子生徒に対するセクハラ事件が多い。その次に多いのが、生徒に暴力を振るったというニュースだ。でも、こういう事件が昔はなかったかというと、そんなことはない。実はこういうことは昔からあって、表沙汰にならなかっただけなのだ。僕は、小〜中学生の時に、そういう嫌らしい教師たちを見ていた。例えば中学生の時、廊下に貼り出されたテストの結果をみんなで見ていると、突然後ろから女子生徒に近づき、「どうだった、○○ちゃん?」と冗談めかして抱きつく教師がいた。女子生徒は、教室に逃げ込んで涙目だった。当時はセクハラという言葉はなかったが、今で言えば立派なセクハラだ。

 僕自身も中学生の時、教師に「君のヌード写真を撮らせてくれ」と言われたことがある。「少年期の肉体の成長について、大学で研究をしてるんだ」ともっともらしい説明をして、何時にどこそこに来るようにと言われた。僕は困った挙げ句、すっぽかした。そうしたら翌日、その教師は真っ青な顔でやってきて、「お母さんには言わなかっただろうね?」と聞いてきた。何も言ってないと聞くと、ほっと安心して去っていった。僕はその頃、「ホモ」という言葉は知らなかったけれど、その教師の態度で、まともな理由じゃないということはわかった。

 そうしたら何ヵ月後か、ある友人が「オレ、先生に裸の写真撮られちゃったよ」と話を始めた。撮ったのは、もちろんあの教師だった。僕のその友人は結構なワルで、規則違反をたくさんしていたので、罰だという名目で公然とヌード写真を撮られたらしい。罰だから、彼も逃げられなかった。

 つまり、当時から今と同じように、セクハラ教師はたくさんいたのだ。当時の子供は教師が怖いから、親にも友達にもなかなか言えないし、親に相談したとしても「まさか先生がそんなことをするわけがない」と取り合ってもらえなかっただろう。だから、そういった教師の行動が表沙汰になることは、ほとんどなかった。


暴力も「変態性欲」では?
 セクハラだけではない。暴力教師も当時から多かった。いや、むしろ当時のほうが多かった。僕が子供の頃は、教師の生徒に対する暴力は日常茶飯事だった。殴られたことのない生徒は、いなかったんじゃないだろうか。僕の学校にも、生徒を全員一列に並べて、はじから全員殴り倒す教師がいた。教師に殴られて鼓膜が破れたとか、歯が折れたという話も、当時は珍しくなかった。教師は生徒を、それくらい思いっきり殴っていた。特に運動部では、もう本当にいつも殴られていた。

 僕なら、今子供を殴れと言われても、殴れない。殴れる人が信じられない。まあ、中学生の生意気なヤツなら殴れるかもしれないけれど、少なくとも小学生は殴れない。この暴力という行為も、実のところサディスティックな性癖、つまり「変態性欲」の表れではないだろうか。「スカートめくり」をやって、その罰で校庭のポールに縛られた経験を持つ編集者がいたが、してみるとあれは「放置プレー」だと言えないこともない。

 つまり『ハレンチ学園』で、自分たちが心の奥で「女子生徒にイタズラしたい」「生徒を殴りたい」という欲求を隠していることを「見抜かれた」のだ。意識はしなくても、本能的に「このマンガは危険だ!」と感じた教師もいたに違いない。逆に、当時『ハレンチ学園』を読んで、「あ、このマンガの中の先生、うちの○○先生にそっくり!」と思った生徒も多かったんじゃないだろうか。また生徒が教師に『ハレンチ学園』の教師の名前を、あだ名にしていたケースも多いだろう。「またヒゲゴジラに触られちゃった」とか。そういうのが教師の耳に入ったりすると、「一刻も早くこんなマンガは撲滅しないと!」と思っただろう。

 こういうことが、『ハレンチ学園』バッシングの本当の理由じゃないかと、僕はひそかに思っているのだ。『ハレンチ学園』のせいかどうはわからないけれど、今や教師の権威はかなり失われてしまったようだ。でも僕は、それは悪いことだと思わない。教師の生徒に対する、セクハラ事件や暴力事件を、堂々と表沙汰にできるようになったのだから。もし、このオープンな状況を作ったのが本当に『ハレンチ学園』なら、僕はとても嬉しい。

<第22回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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