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当時『少年マガジン』の編集長だったUさんが、『ぼくらマガジン』の編集長を兼任することになった。そして、「君を柱にしていくから、何でもいいからとにかく描け」と言う。他誌で連載を何本も抱え、とてもこれ以上描けないと思っていたのだが、この「何でもいいから」という言葉に、ぴくりときた。「ストーリーマンガでも、いいですか?」「いいよ」。僕は、思わず連載を引き受けてしまった。 |
『鬼─2889年の反乱─』を描いた後も、各誌の編集者からストーリーものを、という注文はなかった。それはもう、誰一人として言ってくれなかった。むしろ「これで気が済んだでしょ、さあギャグやってください」という反応だった。当時、徐々にストーリーマンガ方向へ振っていた『ガクエン退屈男』も、アシスタントとして多くの脇役を描いてくれていた石川賢が、この頃いったん独立したため、続けることができなくなって終了してしまった。だから、『鬼』からストーリーマンガへ進む道筋は、この時は開けなかった。 話は少々脇道にそれるけれど、僕は「短編」を描くということが、非常に重要だと思っている。なぜなら、短編は新しい連載テーマの試金石になるからだ。短編なら、いろんな実験ができる。うまくいって連載につながった例では『ハレンチ学園』があるし、たとえ失敗しても構わない。「こうすればもっと面白くなるな」と、ヒントを拾うこともあるし、「こりゃ全くダメだった、バカなことやっちゃった」と思っても、短編なら後腐れがない。『鬼─2889年の反乱─』も、のちに『手天童子』や『凄ノ王』など“鬼シリーズ”と呼ばれる大きなジャンルにつながっている。 最近になって、過去の全作品の年代別リストを作ったのだが、これまでのリストに漏れていた短編もたくさんあった。いろんな雑誌でいろんな短編を描いていたせいで、本人も忘れていたのだ。リストを眺めていると、われながらそのとりとめのなさに、「こいつ、バカじゃないか」と呆れる。タイトルにしても、くだらないもの、今となってはアブナイものも多い。当時の誌面を見ると、ギャグなのに妙に真面目なアオリ文句がついていて、なんだか可笑(おか)しいものもある。締め切りギリギリの進行なので、内容がよくわからないまま、担当者が想像して書いていたのだ。 その中で一つだけ、中身も考えていないうちに、勝手にタイトルを決められてしまった作品がある。担当はあの、集英社の角南さんだ。読み切りを1本引き受けたあと、まだ作品について何の話もしていないうちに「予告にタイトル入れたから」という。僕はびっくりして「な、何て入れたの?」と聞いた。「『よくふか頭巾』だよ」「何ですか、それは!?」「なんか、欲深なんだよ。それでヨクフカ、ヨクフカとか言うの!」。全く、いい加減極まりない。でも、予告に出ちゃったものは仕方がないから、その“お題”に沿って『よくふか頭巾』というマンガを描くはめになった。普通タイトルは、1回くらい打ち合わせをしてから、決めるものだと思うけれど。 |
しかし、忙しい状況に変わりはない。どういうものなら描けるだろうと考えた結果、「コマがでかけりゃあ……」と思いついた。でかいコマばかりで構成すれば、自分の描く部分が少なくて済むという、姑息な発想である。そして、でかいコマが活かせる作品、ということで、「怪獣ものをやりたいです」とUさんに伝えた。「ああ、いいねえ。じゃあそれでいこう。タイトルは?」「え? タイトル……ですか?」。タイトルはおろか、内容も考えてない。それからいろいろ考えたのだが、普通にやると、どうやっても『ゴジラ』の後追いになってしまう。怪獣ものをやると決めたあとで、困ってしまった。実は、怪獣ものの企画が通るとは、思わなかったのだ。講談社の名物編集長であるUさんは、『少年マガジン』の問題作『アシュラ』(ジョージ秋山氏)のモデルになったと言われる人で、実験的な作品に対して、すごく寛容だったのだ。 大きい怪物ということで、ふと思いついたのが、かつて読んだダンテの『神曲』に出てくる、氷漬けの魔王だった。「これだ!」と思った。ただの怪獣ではなく、魔王だということにしよう。魔王という言葉の響きも、カッコいいと思った。作品担当編集者のKさんもノッてくれて、タイトルもダンテの『神曲』にちなんで、『魔王ダンテ』でいこう、と決まった。魔王だから悪魔だよね、というわけで、蝙蝠のような羽根や角といった、悪魔のモチーフを取り入れて造形した。こうして『魔王ダンテ』の連載がスタートした。 第1回は100pをもらったので、遠慮なく大きなコマをどんどん使った。それまでギャグマンガばかりで、小さいコマ割りに飽きていたので、見開きでどーん、という絵もたくさん描いた。『ぼくらマガジン』での人気もダントツだった。しかし、2回目以降、ページ数が30pとかになってくると、回によってはどんな話なんだかわからないこともあった。100pのリズムで描いていると、でかい絵ばっかりで、ストーリーを入れる場所がないのだ。おまけに、長い作品になるはずだったのに、『ぼくらマガジン』の休刊で、途中で無理矢理終わらせることになってしまった。だから『魔王ダンテ』は、成功作とはいえないかもしれない。 しかし『魔王ダンテ』は、このあとに描いた僕の代表作、『デビルマン』や『マジンガーZ』の基本的な要素が、全部入っていた。悪魔のモチーフは、枝分かれして『デビルマン』に発展したし、魔王の造形や、巨大な存在の頭部に人間が入るところは、ロボットに姿を変えて『マジンガーZ』に結実した。また、急きょ話を完結しなければならなかったために、インパクトのあるラストを、と呻吟した結果、神と悪魔という“価値観の逆転”を思いついた。これはいろんな作品を通しての、僕の大きなテーマになっていった。 こういう理由で、『魔王ダンテ』は僕にとって、大きな意味を持つ作品なのだ。 <第25回/おわり>
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