永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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第3のロボット、『マジンガーZ』 『鉄人』『ロボ』は「遠隔操縦型」、『アトム』は「人工知能型」で、『マジンガー』は「搭乗型」のロボットだというわけだ。もちろん僕自身、かつてないロボットを生み出そうとしたのだから、違うのは当然だ。でも最近になって、僕が『マジンガーZ』のような「搭乗型」ロボットを描いた理由は、既にあったロボット像を避けた、というだけではないような気がしている。


『鉄人』と『アトム』と『マジンガー』
 『週刊少年ジャンプ』編集部の予想を超えて、『マジンガーZ』は大人気を博した。そうなると編集部もノリノリになったから、現金なものだ。でも、巨大ロボットものをやると言ったときに、編集部の腰が引けたのも無理はない。のちに『DR.スランプ』や『ドラゴンボール』『北斗の拳』といった、SFテイストの大ヒット作品を次々と世に送り出した『週刊少年ジャンプ』だが、当時はSF路線の連載が一つもなかった。「男の魂」「根性」といった言葉が思い浮かぶ、熱血路線のマンガ雑誌だったのだ。僕はここでも“異端”だった。

 編集部の「えー、今さらロボットですかあ?」という反応も当たり前といえば当たり前だった。『マジンガーZ』(1972年連載開始)の前の巨大ロボットものは、『鉄人28号』の作者・横山光輝先生の『ジャイアントロボ』(1968年連載終了)が最後だっただろうか?『少年』(光文社)の休刊によって、手塚先生の『鉄腕アトム』の連載が終了したのが、これも1968年。『アトム』はその後、ファンクラブ会報で、いくつかの短編が発表されたけれど。とにかく約4年間、ロボットマンガが少年マンガ誌で話題になる事はなかったのだ。

 余談だが、横山先生は麻雀がムチャクチャ上手い。麻雀大会でご一緒した時は、アッという間に牌を積み終えてしまう横山先生の前で、牌もろくに積めなかった僕は、大いに緊張した。なぜかその時僕が勝っちゃったのが、麻雀の不思議なところだけれど。手塚先生は、『マジンガーZ』の単行本の第1巻が出たとき、推薦文を書いてくださった。両先生とは、時々お会いする機会があった。だけど、マンガ家同士というものは、あまりお互いの作品の話をしないものだ。だから、両先生が『マジンガーZ』をどう評価されていたのかは、分からない。手塚先生には、一ファンとして、昔読んだ作品の感想を話したこともあるが、「あ、そういう古いのはどうでもいいんです」という感じだった。

 横山先生の『鉄人28号』と『ジャイアントロボ』、手塚先生の『鉄腕アトム』、そして僕の『マジンガーZ』は、比較して語られることが多い。『鉄人』『ロボ』は「遠隔操縦型」、『アトム』は「人工知能型」で、『マジンガー』は「搭乗型」のロボットだというわけだ。もちろん僕自身、かつてないロボットを生み出そうとしたのだから、違うのは当然だ。でも最近になって、僕が『マジンガーZ』のような「搭乗型」ロボットを描いた理由は、既にあったロボット像を避けた、というだけではないような気がしている。その、僕なりのロボットについて考えたことを書いてみよう。

 ただ、これだけは先に言っておきたいのだ、僕は両先生の作品にケチをつけるつもりは毛頭ない。それどころか、子供の頃に何度も胸を躍らせて読み、自分もマンガ家になろうと決意させられたのが、『アトム』であり『鉄人』なのだ。当然、影響も強く受けているし、これらの作品がなかったら『マジンガーZ』は生まれなかったかもしれない。あくまで、ロボットマンガについて色々考えた結果の分析であり感想だという事を、読者の皆さんには分かって欲しい。


ロボットは、やはり兵器だ
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ご好評にお応えして、
またセクシーショットです。
 まず、「遠隔操縦型」だ。ロボットは自分の意志を持たず、安全な場所にいる操縦者がリモコンを持っていて、巨大なロボットを動かし、敵をやっつける。これ、「何かに似ているな」と思う。そう、司令官は安全な場所にいて、兵士を殺し合いさせるという、現代の戦争に似ているのだ。だから僕はどうしても、ロボットの操縦者が軍の司令官と同じに思える。構図として、リモコンを持った人間は、ヒトラーなどの“独裁者”と一緒なのではないだろうか?僕なんかは、「相手を殺す以上は、自分も殺される覚悟をしなくてはいけない」と思ってしまう。“責任”を取るべきではないだろうか。

 もちろん、子供向けの作品なのだから、そこまで考える必要はないのかもしれない。力のない子供が、大きなロボットを意のままに操る。そして格好良いロボットが悪者をやっつける。その快感こそが醍醐味だ。エンターテインメントとしてはこれで良いと思う。しかし、人間を殺すことが出来る兵器としての一面を持ち合わせている事も忘れてはならない。ロボットには意志が無く操縦する人間次第によっていかようにも変われるのだから。その事を僕なりに考えて生み出した作品が『マジンガーZ』である。

 『マジンガーZ』では、主人公がロボットに乗って戦う。だから、自分が死ぬ可能性も大いにある。実にヒューマニスティックではないだろうか。兜甲児が、祖父である兜十蔵博士からマジンガーZを受け継ぐ時、「このロボットを操れば神にも悪魔にもなれる」と言われる。これは、別の言葉に置き換えるならば「自分の行動に責任を持て」ということだ。乗る人間が悪魔になれば、マジンガーZも悪魔になる。主人公の兜甲児は、軽薄で脳天気なキャラクターだが、実は作品のテーマは重い。同じ『魔王ダンテ』から生まれた事もあるだろうけれど、『デビルマン』の世界に通じるところがある。このへんのテーマは、今後も深く掘り下げて描くかもしれない。

さて、『人工知能型』だ。将来、人間とまったく同じように考える「人工知能」が開発されるかもしれない。でも、僕はそうなっても、「アトムの誕生はそう簡単にはいかない」と考えている。その理由は、また次回。

<第32回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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