永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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マパイオニアはつらいよ 仕事でヨーロッパに行った時、あちらのメディアから取材を受け、こんな事を聞かれた。「どうしてあなたは、ディズニーランドみたいな遊園地を造らないのですか?」。なぜ造れるだけのお金があるのに造らないんだ、というニュアンスだったと記憶しているが、ヨーロッパで僕の作品が、驚異的なヒットを飛ばしていたがために、出た質問だった。


フランスの視聴率100%番組とは
『マジンガーZ』は『デビルマン』と同じく、マンガと同時進行のアニメ企画だったが、その後大きな違いが表れてきた。『デビルマン』がおもに日本国内でしか放映されなかったのに対し、『マジンガーZ』とそのシリーズ、つまり『グレートマジンガー』『UFOロボグレンダイザー』のアニメは、爆発的といっていいほど海外に一気に広まったのだ。
 特にヨーロッパ諸国での人気は、想像を絶するものがあった。

 スペインでは『マジンガーZ』が大ヒットし、フランスでは『グレンダイザー』が『ゴルドラック』というタイトルで最初に放映されたのだけれど、なんと100%近い視聴率を上げた。他のヨーロッパ各国でも、「放送時間の夕方になると子供が町からいなくなる」と言われ、まさに社会現象になった。当然、「あのアニメの原作者は誰だ?」ということになり、海外からの取材もやってきた。その中の一つ、イタリアの放送局が僕の取材で来日することになった。その時イタリアでも『ゴルドラック』が放送され、大人気を博していた。

 ところが取材陣の来日直前、そのイタリアで、幼稚園児くらいの男の子が井戸に落ちるという事故が起きた。落ちた井戸があまりにも狭い井戸だったため、大人が入る事も引き上げる事も出来ず、何日にも及ぶ必死の救出作業も虚しく、男の子はとうとう助からなかった。これだけ聞くと痛ましいながらもありがちな事件だ。だがこの事故は、日本でも大きく報道された。なぜかというと、この男の子が死ぬまでずっと「ゴルドラック、助けに来て」と祈っていたからだ。彼にとって、グレンダイザーは神様のようなヒーローだったのだ。
 
 事件の後に来日したイタリアの取材陣は、僕にこう聞いた。「男の子はゴルドラックを待ち続け、それは来なかった。そして彼は死んでしまったのですが、あなたはこのことについてどう思われますか?」と。たぶんイタリアの人たちは、子供たちの間で日本のアニメが大流行していることを、快く思っていなかったのではないだろうか。しかし、グレンダイザーを見たせいでその子が亡くなったわけではないし、僕にどう思いますかと聞かれてもなあ、というのが正直な気持ちだった。だから、「じゃあ、『イエス様、助けて』と祈っていたら、イエス・キリストが来たんですか?」という言葉が、喉まで出かかったけれど、こんなところで反発をかっても仕方が無いし、「まあ、仕方が無いですね」とはぐらかすしかなかった。

 同じ頃、漫画集団のマンガ家先生たちが、ヨーロッパ旅行に行ったことがあった。帰ってきた小島功先生が、僕に嬉しそうにこう言った。「いやあ、『マジンガーZの国のマンガ家さんが来た』っていうんで、あっちですごくモテちゃったよ!」それが本当なら、僕がモテるはずだったのに。当時の僕は仕事が無茶苦茶忙しくて、海外に行くことなんかできなかった。だから、海外でアニメがどんなにヒットしても、僕にとっては、あんまりいいことはなかったのだ。


「なぜ永井豪ランドを造らないのか」
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仕事場で、兄・泰宇や当時のアシスタントたちと。
 最近になって、こんなこともあった。数年前に「アジアマンガサミット」というアジアのマンガ家の交流イベントが、福島のいわき市で開催された。僕も出席したが、その最終日に、「みんなで歌を歌って、お開きにしよう」ということになった。しかし、何ヵ国もの人間が集まっているので、共通して知っている歌がないので困った。全員で歌える歌として選ばれたのが、『マジンガーZ』の主題歌だった。皆それぞれの国の言葉で歌って、イベントのエンディングは大いに盛り上がった。ヨーロッパだけでなくアジアでも、『マジンガーZ』は知れ渡っていたのだ。

 仕事でヨーロッパに行った時、あちらのメディアから取材を受け、こんな事を聞かれた。
「どうしてあなたは、ディズニーランドみたいな遊園地を造らないのですか?」。なぜ造れるだけのお金があるのに造らないんだ、というニュアンスだったと記憶しているが、ヨーロッパで僕の作品が、驚異的なヒットを飛ばしていたがために、出た質問だった。

 しかし、実際は僕のところは、それほどお金が入ってこなかった。それはどういうことかというと、当時の人たちは、著作権という今では当たり前の知識がなかったのだ。だから、海賊版は造られていたし、僕の想像もつかない商売が現地では行われていたらしい。
 まったく、パイオニアは辛い。今では海外との契約もちゃんと行われるようになり、「ジャパニメーション」と呼ばれる、日本アニメのムーブメントが起きている。後続の人たちは、こういう問題にぶつかることがなく、楽が出来る。

 僕の場合はマンガにしても、『少年ジャンプ』の創刊の頃に『ハレンチ学園』の単行本が売れたといっても、微々たるものだった。当時の一般読者には、単行本を買うという考えがなかったのだ。でもやがて『ジャンプ』の部数が400万、500万、600万と伸び、その時に連載していたマンガ家の単行本の売上げは、トップ作品でなくても何百万部と売れている。

 でもまあ、人のやっていないことをやろうと思ったら、パイオニアになるしかない。そういう志を持ってやってきた結果なわけだから、仕方がない。問題が生じたら、それを解決する。そしてまたその道を、後からやってきた人が進む。するとまた問題にぶつかる。それを解決する。一つのジャンルが成立する時とは、こういうことなのだと思う。手塚先生も、日本にアニメーションを定着させるために、大変苦労をされたと聞いている。そういったパイオニア精神を忘れてしまっては、マンガ・アニメの未来がなくなってしまうだろう。

 最後に一言。「そのうち『永井豪ランド』だって、なんとかなるかもしれない!」。それを信じて、頑張ることにしよう。


<第35回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
(c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2002-2003



永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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