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僕が次に「鬼」をマンガで描いたのは5年後。秋田書店の少女マンガ誌『プリンセス』から読み切りを依頼されたときのことだ。女の子向けには、何を描いたらウケるんだろうか。いろいろ考えた挙げ句、女の子の潜在意識に、セクシャルなイメージが伝わるモノにしたらウケるんじゃないか、と思いついた。そこで思い出したのが「鬼」だった。鬼の角は、男の子のシンボルを暗示させる。きっと女の子にとって角はセクシーで、インパクトがあって、きっとアンケートで票が取れるんじゃないだろうか。そういうヨコシマな考えで、僕は鬼の話を描くことに決めた。
もちろん女の子向けなので、まあ形にもよるだろうけれど、あまりナマナマしい形の角はマズイ。それに、“実物”を見たことのある読者も少ないだろうし……でも、小さい男の子のオチンチンなら見たことがあるかな? と、けしからんことを勝手にいろいろ考えた結果、「頭に小さな角の生えた美少年」を主人公にした。実際に絵に描いてみたら、非常に可愛らしい主人公になった。次に、名前だ。やっぱり鬼といえばナニナニ童子だろう、ということで、一番有名な鬼「酒呑童子」をもじって、「手天童子郎」という名前を考えた。鬼についてちょっと調べたりしているうちに、昔の役行者(えんのぎょうじゃ)が善鬼・護鬼という鬼を使いめにしていたことを知って、主人公が善鬼だという設定にした。役行者にゆかりの女の子をヒロインにして、『手天童子』(のちに『邪神戦記』と改題)という短編が出来上がった。
だが、いざ描いてみるとページも少なくて、充分に鬼の世界を描ききれなかった。それに、やはり女の子に読ませるんだったら、歴史考証を入れるよりも、シンプルにホラーマンガにしたほうがウケたなあ、とも後で反省した。そういうわけで、この『プリンセス』版『手天童子』には、大いに悔いが残ってしまった。ただ、この「手天童子」という鬼の名前は、自分でも非常に気に入っていたので、またいつか描くチャンスがこないものかと思っていた。そうしたら翌年、『週刊少年マガジン』から、何でも好きなモノを描いていいという連載の依頼が来た。
最初は、すぐに鬼の話を描こうとは思わなかった。だが、『マガジン』での新連載のテーマを考えているとき、突然、あるイメージが僕の頭の中に、バン! と現れた。それは、赤ん坊を口にくわえた、巨大な鬼の顔のイメージだった。「いまのは一体、何だろう?」と不思議に思ったのだけれど、もうこのイメージだけで、「この絵を描きたい!」という欲求が湧き起こってきた。続いて手天童子郎のことが頭に浮かび、鬼の話をまたやろうと思っていたことも思い出した。「そうだ、鬼を描こう!」。例によって、ストーリーは何も考えないまま、僕はそう決めてしまった。
こうして『週刊少年マガジン』で、再び『手天童子』という連載を開始した。でもこのとき、僕は自分がこの連載のせいで大変な目にあうことは、もちろん予想していなかったのだ。
<第36回/おわり>
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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