永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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鬼の正体について考えること こうして『手天童子』は、無事に最終回にたどりついた。いよいよ最終回かと思ったとき、何かやらなきゃいけなかった使命が一つ終わったというか、ものすごく救われた感じがした。最終回のネームは喫茶店でやっていたのだが、突然、涙がどーっとあふれてきて止まらなくなった。他のお客の目もあるし、こりゃまずいと、左腕で顔を隠しながら描いた。


アシスタントにも被害が
 ある日、アシスタントに原稿の指示をしているときの話だ。「先生あの、すみません」「ん?」「見ちゃったんです」「何を?」「鬼の夢を……」「えー!」。『手天童子』を描き始めて、鬼の夢にうなされるようになったのは、僕だけではなかったのだ。よくよく話を聞いてみると、鬼の夢を見たという者が、他にも何人もいた。「角が6本もある鬼が、出てくるんですよ」とアシスタントの一人。「ほお。そりゃよかったね」と僕。角が6本の鬼は、まだ見てなかったのだ。「よくないですよ! その夢見たら、気持ち悪くなって吐いちゃったんです」「えー。でも、その鬼カッコいいから、今度マンガに出そうかな」「や、やめてくださいっ!」。

 彼らの怖がり方は、尋常じゃなかった。「早く連載をやめてください!」と何度もアシスタントたちに言われた。僕も、鬼の夢を見ているのが自分だけじゃないとわかって、実は心底ゾッとしていた。体がしびれるような怖さだった。でも、作品を途中で投げ出すわけにはいかない。「いや、もう少しで終わるから。もう少しもう少し」と、みんなをなだめながら連載を続けた。もう、毎日が鬼との戦いだった。「オレは鬼を悪く描こうとしてるんじゃないんだよ!」「怨みを晴らそうと思って描いてるんだからね!」と、誰も聞いてないのにつぶやきながら、それでもストーリー上、鬼たちがたくさん殺される場面を描いていたりした。そして相変わらず先の展開は全く見えない。僕は、『手天童子』がボロボロの失敗作になることを覚悟した。

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この頃、豊田有恒さんと、スペインで。
 光明は、突然見えてきた。結末に至るきっかけを作ったのは、皮肉なことに、夢で見た鬼の大仏だった。夢で見たイメージをもっとすごくしようと考えていて、ふと「この頭に、女の人が付いていたら面白いな」と思った。なぜそう発想したのかはわからない。すると形がサマになったというか、いい造形になった。兄の泰宇と、この鬼の大仏にすごい名前をつけようと相談した。「仏の一番すごいのが如来(にょらい)だから、邪(よこしま)な如来ということで“邪来(じゃらい)”というのはどう?」と、兄が思いついた。そこからイメージが広がって、暗黒、死の夜、という言葉をくっつけて「大暗黒死夜邪来」というとんでもなく罰当たりな名前を付けた。

 頭に付いている女性が誰かは、そのときは全然考えてなかったけれど、主人公の母親だということにすると、たくさん謎が出てきて面白いという気がした。そうしたら謎が増えて、ストーリーはますます複雑になった。当たり前だった。「あー! やっぱりやらなきゃよかった」と後悔したが、結局はこのアイディアが、広げに広げたストーリーを収束してくれた。主人公の母親を重要な役にする必要が生じたので、心を病んで病院にいることにした。鬼に子供(主人公)をさらわれて、ショックのあまりその時点で精神が止まっているのだ。そして、鬼に対してすさまじい怨念を抱えており、怨みを込めて病室の壁に鬼の絵を描き続けている──。この場面を描いたとき、僕は「あ、できた!」と確信した。主人公・手天童子郎の誕生の秘密が解けたのだ。作品を読んでいない方には、何のことかわからないかもしれないけれど。


鬼の「角」とは、何なのか?
 こうして『手天童子』は、無事に最終回にたどりついた。いよいよ最終回かと思ったとき、何かやらなきゃいけなかった使命が一つ終わったというか、ものすごく救われた感じがした。最終回のネームは喫茶店でやっていたのだが、突然、涙がどーっとあふれてきて止まらなくなった。他のお客の目もあるし、こりゃまずいと、左腕で顔を隠しながら描いた。作品に感動したというのではなく、もっと深いところから出てきた涙、とでもいおうか。「オレ、鬼に相当迷惑かけたことがあるのかなあ」と思った。前世というものがあるとしたら、人に大きな怨みをかったことがあるのだろう。その人が、過去の僕を強く怨んで、鬼になったのだろうか。『手天童子』を描いたことが、その贖罪になったのかもしれない。僕は、そう思った。

 そう、「怨みを持った人が、鬼になる」のだ。僕は、そう考えている。だから、鬼は想像上の存在ではなく、実在したと思っている。と言っても、「鬼」という種族や生物がいたという意味ではない。人間こそが、鬼の正体なのだ。鬼については、いろいろな伝承が残っている。巨大であり、赤い色や青い色をしており、悲しいような怨みがましいような形相で、そして頭にいろんな本数の「角」が生えている。あるいは、金棒を持っていたり、虎の皮のフンドシをしているという描写もある。そういう特徴の謂われは、僕にはわからない。

 でも、その中で一つだけ、「角の正体」については、こうではないかと考えていることがある。鬼の角は、きっと精神的な力が具象化したものだ。オーラの固まり、と言ってもいいかもしれない。人間がものすごい怨念に取り憑かれると、その怒りや怨みが、頭から外部に向かってぐおっと放射され、燃え立つのだ。オーラが見える人がいるらしいが、昔もいたのだろう。その人の目には、頭に角が生えているように見えただろう。激しく怒った人を見ると「頭に角が生えている」と言うではないか。そして精神世界では、そういった激しい怨念を抱えた人は、きっと鬼の姿をしているに違いない。鬼という言葉の語源については、人の世に隠れ忍ぶ存在なので「隠」(おん)から来た、という説が強いけれど、僕は「怨念」(おんねん)が「おに」になったんじゃないか、と考えている。

『手天童子』の6年前、『鬼─2889年の反乱─』という短編を描いたとき、本物の人間と区別するために、人造人間の頭に角が付けられた、という設定にした。そして人造人間たちは、人間たちのあまりの非道な扱いに「鬼」となり、人間を殺し尽くすことを誓う。この作品を描いたときには、角の正体については何も考えていなかったけれど、角が怨念の象徴であるという今の考えとも、見事につじつまがあっていたようだ。


<第38回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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