永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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『バイオレンスジャック』とは何か(1) この三十郎が見せる「格の違い」を、僕はマンガのキャラクターとして見せなければならない。そこで、「火の見櫓と人間が合体した男」として造形した。つまり、圧倒的な巨人にしたのだ。他の登場人物と常に顔の位置が違う巨人ならば、見ただけでレベルの違いがわかる。主人公がいちいち、火の見櫓に上る必要もない。動いていても大丈夫だ。


戦国時代の話が描きたい
 僕が描いた作品の中で、連載期間が一番長かったものが『バイオレンスジャック』だ。最初『週刊少年マガジン』(1973〜'74)でスタート、そのあと『月刊少年マガジン』('77〜'78)に舞台を移し、そして5年間のインターバルを経て『週刊漫画ゴラク』('83〜'90)で再開、約18年を経てようやく完結にたどりついた。それだけに、連載中はいろんなことがあった。途中、読者から非難を浴びたり、批判されたこともあった。しかし僕にとっては、自分自身の作家としての「使命」を考えるきっかけになったこともあり、非常に意義深い作品だと思っている。

 渾身の力を注いだ作品『デビルマン』が終わって、ホッとするまもなく『週刊少年マガジン』の編集部から、「さあ、次は何をやりましょう?」と言われた。1ヵ月だけ間をおかせてもらうことにして、次の作品を構想したが、そのとき僕が考えたのは、「時代劇をやりたいな」ということだった。個性的な大物たちが次々と登場する、群雄割拠の戦国時代を描きたかったのだ。しかし、前々から編集部には「時代劇はうけないからダメ!」と言われていたので、ストレートにその企画を持ち出しても、通してもらえるとは思えなかった。時代劇で実績のあるさいとう・たかを先生ならいざ知らず、当時の僕にはギャグとSF以外の実績がなかった。

 そこで考えたのが、「現代に戦国時代を作れないだろうか?」ということだった。できればSF仕立てのほうが、僕の読者にも受け入れられやすい。そして、このような設定を思いついた。関東地方に大地震が起こり、周囲から隔絶されて無法地帯となる。そしてそこに、いろんな強者が出現して、群雄割拠の“疑似・戦国時代”になっていく──。地震で関東平野全体が荒野になってしまうという設定は、最初に考えたときには、我ながらあまりにも荒唐無稽でウソ臭いかな、とも思えた。しかし、その頃小松左京さんの小説『日本沈没』が出版された。「日本を沈没させる人がいるんだから、関東を荒野にするくらい、全然いいや!」と思って、僕は予定通り、その設定で進めることにした。


火の見櫓に上った主人公
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雑誌の懸賞の応募ハガキの前で、赤塚不二夫先生と。
 次に、主人公のキャラクターを考えた。主人公を生み出す際にヒントになったのが、白土三平先生の『忍者武芸帖 影丸伝』だ。忍者・影丸が歴史を裏側で動かしていく、その構図が実に魅力的だった。歴史を触媒として動かせるような人物が一人設定できれば、その人物を中心にして様々な戦いが繰り広げられていくだろう。僕は影丸をベースに、主人公となるキャラクターを考え始めた。

 しかし、僕の考える主人公にはもう一つ、影丸にはない圧倒的な「力」と「器」が必要だった。そして僕は、黒澤明監督の映画、『用心棒』を思い出した。『用心棒』という作品は、ヤクザの世界の中に、力量も人間のレベルもはるかに上回る人物が入ってきて、一人で引っかき回すという設定だ。この感覚がほしかった。黒澤はこの人物を表現するのに、上手い演出を使っている。映画のイントロで、主人公・桑畑三十郎が、火の見櫓の上にいる。そしてヤクザ同士がへっぴり腰で刀を振り回す様子を、はるか高い場所で笑って眺めているのだ。このシーンで、ヤクザと三十郎の格の違いを表現していた。

 この三十郎が見せる「格の違い」を、僕はマンガのキャラクターとして見せなければならない。そこで、「火の見櫓と人間が合体した男」として造形した。つまり、圧倒的な巨人にしたのだ。他の登場人物と常に顔の位置が違う巨人ならば、見ただけでレベルの違いがわかる。主人公がいちいち、火の見櫓に上る必要もない。動いていても大丈夫だ。僕は主人公を「身長2メートル20」という設定にした。これは当時、現実にはいないだろうけど、ひょっとしたらいるかもしれない、というギリギリの線を狙った数字だった。しかし、あとからプロレスにアンドレ・ザ・ジャイアント(身長2メートル23)が登場してきたりしたので、負けじと3メートルくらいになり、ついには物語の展開によって、伸びたり縮んだりするようになってしまった。これが、主人公のバイオレンスジャックだ。

 物語の冒頭、まず僕は、逞馬竜というキャラクターを通して“関東地獄地震”で滅亡する世界を描くことにした。この「現代編」は最初、軽く流してすぐに滅亡後の世界に進むはずだったのだけれど、舞台となる世界について、設定をハッキリ見せておく必要があった。また逞馬についても、ジャックの存在感に負けないよう、丁寧にキャラクター作りをする必要があった。そのため逞馬の人間関係を描き、成長を描き、「現代編」はどんどん長くなっていった。このこと自体は、今でも正解だったと思っている。だけど雑誌の人気という点では、開始直後は上位にいたのに、だんだん落ちていく一方で、ついには下から数えたほうが早いところまで落ちた。

 物語のスケールは大きくなったが、編集部は「早くココを終わらせてくれ……」と思っていたようだ。ようやく「地獄地震編」が終わって、その回の最後のページに「ここからバイオレンスジャックの物語が始まる」と大書したとき、周囲はひっくり返った。「えー!? こっから始まるの?」「今までなんだったんだ、プロローグかよ!」という声が、僕の耳にも聞こえてきた。そこまで300pは描いていただろうか。マガジン編集部も、よく辛抱してくれたものだ。

 こうして、『バイオレンスジャック』の物語は、ようやく本格的に進み始めた。主人公・バイオレンスジャックは、実に強力なキャラクターとして誕生した。というか、「強力すぎる」キャラクターだともいえた。ということは、ジャックと絡むキャラクターたちも、互角に戦えるだけのスター級のキャラクターが必要だということだった。この強すぎる主人公が、『バイオレンスジャック』という物語の方向性を、大きく支配することになったのだ。


<第40回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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