永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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『バイオレンスジャック』とは何か(2) もともと戦国時代を描くつもりで始めた作品だ。戦国武将クラスの、個性的で強いスター級のキャラクターをもっと出していかねばならない。しかし、そんなにたくさんスター級のキャラクターを作れるものでもない。いや逞馬竜のように、描けないことはないけれど、またもや生い立ちから丁寧に説明をしないといけない。それでは読者がまた飽きてしまうし、お話のパターンも似てきてしまう。


「永井豪、ひどい!」
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読者の女の子と。ホントですって。
 長い長いプロローグを経て、ようやく『バイオレンスジャック』は、関東地獄地震後の世界である「関東スラム街編」に突入した。ところが、主人公・バイオレンスジャックに立ち向かう人物を出すときに、はたと考えた。ジャックを身長2メートル20の“人間火の見櫓”にしたので、敵もよほどのキャラクターでないと、この巨人にすぐに負けそうに思える。かといって敵キャラクターまで巨人にしたら、今度はジャックの存在感が薄くなる。しかし、敵は無茶苦茶に強いヤツでないといけない。

 そこで、敵キャラクターに鎧を着せることにした。体はジャックよりも小さいのだが、ものすごい筋力の固まりだ。厚さ1センチという分厚い鉄板の鎧を着ても、非常に素早く動くことができる。子供の頃からあまりに筋力が強いので、自分の体を自分の筋肉で破壊するおそれがあり、鎧を着せられた上に鎖で土蔵に繋がれていた、というとんでもない人物。本名を銅磨高虎といい、地震後の世界ではスラムキングと呼ばれている。彼は代々自分の家に伝わる、長さ2メートルの「斬馬刀」を軽々と振り回して、ジャックたちと戦うのだ。このスラムキングならば、ジャックに充分太刀打ちできるだろう。

 さらに僕は、スラムキングをとんでもなく悪いヤツにしようと考えた。敵が悪いヤツほど、主人公の人気が出るからだ。ではどうすれば、スラムキングの残酷さを表現できるだろう。出てきただけで「こいつはひどいヤツだ!」と読者が思うような工夫……。「そうだ、人間を犬のようにして連れて歩いていたら、これは本当にひどいヤツだよな?」と思いついた。これが、「人犬」(ひといぬ)だった。人間なのに手足を短く切られ、犬のような格好をさせられて、犬のように扱われる存在。スラムキングは、この人犬をいつも連れ歩いているのだ。

 人犬にされる人間も、重要だと思った。どんなキャラクターを人犬にしたら、読者がスラムキングを憎んでくれるだろうか。そして、思いついた。「まだ『デビルマン』の連載終了直後で余韻も充分残っていることだし、一番人気のあった美樹ちゃんと飛鳥了を犬にしようかな?」。これはおいしいアイディアだと思った。一発でスラムキングを憎んでもらえる。きっと、「ジャック頑張れ!」と主人公を応援してもらえるだろう。そして僕はいそいそと、牧村美樹と飛鳥了の人犬を描いた。

 そうしたら、非難囂々(ごうごう)だった。「スラムキング、ひどい!」となるはずが、「永井豪、ひどい!」になってしまったのだ。「あれ?」と僕は混乱した。そして予定外の反応に、ただ呆然とするしかなかった。こんなはずじゃなかったのに……。人間を人犬にするというあまりの残酷さに、読者がすっかり「引いて」しまい、スラムキングではなくて、それを描いた僕が憎まれてしまったのだ。読者の人気投票順位も、前の回まですごく高くなっていたのに、人犬を出したとたんにガクン! と急降下した。「ありゃあ……」と、僕は人気アンケートの紙を見ながら、溜息をついた。


主役を脇役で登場させよう
 読者の猛反発は受けてしまったものの、『デビルマン』の中心キャラクターを使ったことで、『バイオレンスジャック』の作り方が決まってきた。今後も、自分が他のマンガで描いたキャラクター、それも主役級をどんどん投入していくことにしたのだ。もともと戦国時代を描くつもりで始めた作品だ。戦国武将クラスの、個性的で強いスター級のキャラクターをもっと出していかねばならない。しかし、そんなにたくさんスター級のキャラクターを作れるものでもない。いや逞馬竜のように、描けないことはないけれど、またもや生い立ちから丁寧に説明をしないといけない。それでは読者がまた飽きてしまうし、お話のパターンも似てきてしまう。

 これらの問題を一挙に解決するのが、「過去に描いた、他のマンガの主役キャラクターを出す」という方法だった。彼らは、一度は主役を張ったくらいで、すでに強いキャラクターだ。また、どれも完成していて、今さらキャラクター作りをする必要がない。それに、僕の読者もよく知ってくれているから、いちいち説明をする必要がない。おまけに、僕自身も描いていて動かしやすい。まさにいいことずくめだった。

 こうして『バイオレンスジャック』には、過去の作品で主役を務めたキャラクターたちが、どんどん登場してくることになった。『ガクエン退屈男』『凄ノ王』『アイアンマッスル』『マジンガーZ』『ハレンチ学園』『学園番外地』『あばしり一家』『キューティーハニー』『ズバ蛮』『骨法伝説 夢必殺拳』『ドロロンえん魔くん』『けっこう仮面』『オモライくん』、などなど。まさにオールスター総登場の様相を呈していった。このことは、読者によっては批判の対象になったようだ。作品ごとに、その主人公に対する思い入れを持ってくれているからだろう。しかし、僕はやめるつもりはなかった。

 創作上のメリットばかりを挙げたけれど、こういうことをしでかした根底には、僕が「パロディー好き」だということが大きい。だから僕自身、「次は誰を出そうかな」と、描いていて楽しかった。『けっこう仮面』のときは、ギャグだから笑って許してもらえたわけで、『バイオレンスジャック』のリアルな設定では「ごめんなさい」では済まない。でも、自分のキャラクターなら、誰にも文句は言われない。けっこう仮面はどうしても出したくて、結局ストリッパーの役で出したし、マジンガーZは肩車の上に兜甲児が乗っかる形にして出した。さすがに3人肩車は絵にならないので、ゲッターロボは出さなかったけれど。手天童子も出したかったが、何枚か描いたところで、またビリビリと来て怖くなってやめた。

 人犬騒動が過ぎて、人気もまた出てきた『バイオレンスジャック』だったが、連載から1年ほどたったところで、世の中に大変な問題が持ち上がった。そしてこのせいで、『週刊少年マガジン』での連載は、終了することになってしまうのだ。


<第41回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
(c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2002-2003



永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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