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鬼怒川の「マジンガー大会」でファンの子供たちと。 |
次に、『レディー』に登場する悪魔の設定で考え込んだ。『デビルマン』のムードは持ち込みたいのだけれど、同じ悪魔の流れを引っ張ってもしようがない。新しい悪魔像を作りたかった。当時ヒトゲノムの解析が話題に上り始めたころだったので、これを使うことにした。人間のDNA異常が全世界的に同時発生し、人間が次々と魔物になっていくのだ。あえて悪魔という言葉は使わず、デビルビーストという名前にした。レディーも、デビルビーストとして生まれたヒロインなのだ。
このアイディアのヒントにさせてもらったものに、昔読んだ小松左京さんの短編小説『牙の時代』がある。川に牙の生えた魚が出現する下りから始まって、全生物が一斉に巨大化かつ凶暴化していくという、壮大なSFだ。こんなスケールの大きな話を短編で書いてしまうなんて、なんてモッタイナイ! と僕は以前から思っていた。原始人はゴリラのようにでかく、未来人は細い体で頭でっかち、というイメージがあるように、進化すると生物は華奢になっていく、という共通認識がある。『牙の時代』はこれを見事に覆し、凶暴化へ向かうという逆転の未来予測を立てたところが、ショッキングだった。
『バイオレンスジャック』は、一度滅びた『デビルマン』の世界を、サタンが復活させた世界の物語だった。しかし『デビルマンレディー』では、『デビルマン』とは全く別の作品にしたかった。不動明やハルマゲドンも、出す予定は全然なかった。レディーを不動ジュンという名前にしたのも、不動明の代わりを務めさせるためで、「明は出ませんよ」という意思表示だったのだ。だから『レディー』の中では、現実の世界と同じく『デビルマン』がマンガの本で売られていることになっている。人類全体の進化と、戦争に向かっていく世界を重ね合わせていけば、それだけで充分に面白い話になると思った。
しかし、である。連載を重ねていくうちに、ファンや周囲の人から「いつデビルマンが出てくるんですか?」と聞かれるようになった。やはりデビルマンという名前がついていると、不動明の登場を、どうしても期待してしまうらしい。というか、出ないと納得してもらえないようなのだ。そうなると僕も、「そんなに期待されているのなら、出そうかな」とか、「出せば間違いなく人気がとれるな」とか、考えるようになっていった。
一方でこの頃、僕自身も、作品の先行きに少し不安があった。その不安の原因は、主人公であるレディーだった。とにかく、真面目すぎるのだ。真面目だから無茶な行動はできず、事件が起こると行動が限られる。明のような、完全に強い万能のスーパーヒロインにはなれないな、どっかで倒れるかもしれないな、と感じていた。不思議な話だけれど、自分の生みだしたキャラクターでも、自由自在に動かせるヤツと、そうではなくて勝手に行動範囲を決めてしまうヤツが出てくる。不動ジュンの場合は、後者だった。暴れさせようと思って描いていても、行動にブレーキがかかってしまうのだ。
「よし、不動明を出そう!」と、僕は決断した。実は『レディー』の中で、僕はコッソリ、ジュンを助ける謎の人物を出していた。まだ誰だとも決めてなくて、「こういう人物を出しておけば、あとあと面白くなるだろう」と、例によってカンが働いて出していたのだ。これがいい伏線になった。しかし、『デビルマン』とは別の世界として描いていた以上、すんなり登場させることはできない。なにか、大きなアイディアが必要だった。
<第44回/おわり>
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