永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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『レディー』と“地獄”と『ダンテ神曲』 それから20年以上たったある日、「ダンテの『神曲』をマンガ化しませんか」という話をいただいた。この作品をマンガ化しようという人は、僕のほかにいないというのだ。それもそうだな、と思った僕は、とりあえず岩波文庫版で読み返してみた。そうしたら、これがまた文語体の古い訳で読みにくく、注をいちいち参照しないと意味がわからない。


地獄に悪魔
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ドレの描いた地獄には、こんな顔をした亡者が……。
 不動明、つまりデビルマンを『デビルマンレディー』の世界に登場させるには、工夫が必要だった。『レディー』の世界では、この僕たちの世界と同じく、『デビルマン』はマンガに描かれた世界だ。そこで、現実の世界と虚構の世界を繋ぐために、不動明が現実でも虚構でもない場所にいることにした。それが“地獄”だった。「デビルマン世界」で死んだ不動明が、地獄を通じて「レディー世界」へ現れるのだ。デビルマンという悪魔が地獄にいるというのは、面白いと思った。また、マンガの登場人物が現実の世界に出てくるという、ワクワクする臨場感が出せるはずだった。

『デビルマンレディー』に地獄の場面が登場したとき、僕の熱心な読者は、その約4年前に描いた作品を思い出されたかもしれない。それは、『ダンテ神曲』という作品で、14世紀の詩人ダンテ・アリギエリが書いた古典叙事詩を、僕がマンガ化したものだ。この『ダンテ神曲』を描いてなかったら、『デビルマンレディー』で地獄を描こうとは思わなかっただろう。だから、話が前後してしまうけれど、『ダンテ神曲』についてちょっと書いておきたい。

 1971年、僕が最初に描いたストーリー作品が『魔王ダンテ』というSFだった。このタイトルが『神曲』を書いたダンテ・アリギエリから来ていることも、前に書いた。僕は、ようやく字が読めるようになった頃に、子供文庫『ダンテの神曲物語』を読んで、その地獄のイメージにものすごいインパクトを受けていた。作品に登場する怪物キャラクターを発想する際に、『神曲』に登場する魔王のイメージを利用したので、こういうタイトルにしたのだ。

 そして、それから20年以上たったある日、「ダンテの『神曲』をマンガ化しませんか」という話をいただいた。この作品をマンガ化しようという人は、僕のほかにいないというのだ。それもそうだな、と思った僕は、とりあえず岩波文庫版で読み返してみた。そうしたら、これがまた文語体の古い訳で読みにくく、注をいちいち参照しないと意味がわからない。また、ものすごい情報量の話で、とてもじゃないがやれそうにないと思った。それに、子供のころに感銘を受けたドレの版画が、ほとんど入っていなかった。

 こりゃ無理かな、と思っていたら、詩人の谷口江里也さんが、ドレの絵を中心に翻訳されている本を、講談社から出していることがわかった。谷口江里也さんは、『神曲』の翻訳家・研究家として有名な方で、なんと『神曲』の版画の原版を全部持っている。石のように堅い木で、日本に置いておくと湿気で反ってしまうから、スペインに置いてあるらしい。14世紀の本なので、著作権はとうに切れており、原版を持っている谷口さんが版権を持っているに等しいのだ。

 その谷口さんの本を読ませてもらった。まず、版画の量に圧倒された。子供の頃には見たことのない、生々しい地獄の風景を描いた版画も、たくさん収録されていたのだ。子供版では載らなかったのは、出版社が残酷すぎると判断したのだろう。また、要約された文章も素晴らしかった。簡潔かつ詩的な口語訳で、原作のストーリーがよく理解できた。これがあれば、描ける。岩波文庫版は、補足的に使えばいい。まさに、地獄で仏だった。

『神曲』を描くにあたってお会いした谷口さんも、「芸術は繰り返しなのですから、思い切ってご自分の『神曲』を描かれるといいですよ」といってくれた。とりあえず30枚くらい描いてみて、なんとかいけるだろうと判断し、正式に仕事を引き受けた。こうして、'94年に永井豪版『ダンテ神曲』を、単行本描き下ろしという形で発表した。


天国なんて、ないんじゃないか?
 あらためて『神曲』を読んでみて、驚いたことがあった。それは、地獄に来たダンテと、彼を導くベルギリウスが、不動明と飛鳥了の関係にソックリだったことだ。不思議な符合だと思ったが、おかげで非常に描きやすかった。

 実は、原作の『神曲』では、地獄だけでなく“天国”も描かれている。ところが、天国編はちっとも面白くない。ダンテ自身、イメージがないようなのだ。だからドレの版画にしても、雲の中に人が大勢いて歌を歌っているとか、翼の生えた天使がふらふら舞い踊っているとか、抽象的な絵ばかりだ。天国の中での階層の違いも、よくわからない。だから、天国編をマンガにするのは、大変だった。宇宙的なイメージで、ごまかして描くしかなかった。

『神曲』をマンガ化して思ったのだけれど、天国なんて場所は、実は「ない」んじゃないだろうか。だから誰も、高名な宗教家でさえも、天国に明確なイメージを持てないのだ。死後の世界は、あるかもしれない。しかしそれは、霊界という意味でしかなくて、天国と地獄の二つがあるわけではないのかもしれない。つまり、死後の世界は全部“地獄”、死んだらみんな、地獄へまっしぐらというわけだ。キリスト教に限らず仏教だって、ほかの宗教だって、地獄はすごくリアルだけれど、天国についてはハッキリ描写していない。

 天国とは、正しく生きた人間だけが行ける場所だという。でも、欲望のない人間なんているわけないし、間違いを犯さないまま死ぬことも、できるはずがない。誰かに善行を施したつもりでも、他の人には迷惑だってこともよくある。だいたい、天国に行って未来永劫いい目にあいたいなんて、こんなに強い欲望はないじゃないか? そんな人は最も“強欲”だ。そんなことも、僕は考えた。とにかく、マンガにする上では、天国より地獄のほうが、うんと面白い。

『魔王ダンテ』で名前を借りた『神曲』を、僕は23年たってマンガ化した。そしてさらに3年後、またしても『デビルマンレディー』で、『神曲』から得た地獄のイメージを描くことになったわけだ。


<第45回/おわり>

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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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