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怖い人たちの集まりではありません。漫画新人賞の表彰式で。 |
さて、『デビルマンレディー』の話に戻ろう。不動明を登場させることに決めたけれど、『レディー』のコンセプトを変えるつもりはなかった。多少方向転換はしていくにしても、人類のデビルビースト化、つまり「人類の異常進化」を描くことに変わりはなかった。僕は、地獄と呼ばれる強烈なエネルギーを持つ世界が、現実の世界と接触し、影響を及ぼし始め、その結果人類が異常進化を始めたという設定にした。これまでは悪魔を描いてても、悪魔の住む世界である地獄をちゃんと出してはいなかった。「デビルマン世界」では、悪魔は地球の先住民族という設定だったからだ。ここで初めて、「悪魔が地獄にいる」という正常(?)な状態を描くことになった。
デビルマンを登場させ、同時に『ダンテ神曲』の地獄世界を取り込むことで、『デビルマンレディー』の世界は大きく広がった。そして『魔王ダンテ』の世界までも巻き込んで、単行本にして17巻という、『バイオレンスジャック』の次に長い作品になった。自分の中では、もしかしたら『デビルマン』より面白い作品かもしれない、とも思っている。何年かたったら、通して一気に読み返してみたい。
ただ『レディー』は、ものすごくエネルギーを消耗した作品だった。もう苦しくて苦しくて、のたうちまわりながら描いていた。ウチの奥さんにも、今も「『レディー』を描いているときは、辛そうだったよね」と言われるくらいだ。でも一方で、絵を描くこと自体は、すごく楽しかった。暴れているレディーを描いているだけで楽しかったし、地獄の風景や、登場する数々のデビルビースト、それに世界戦争まで、とにかく絵として面白いシーンにあふれている作品だったと思う。是非、一度お読みください。
同時に、もっともっとやれる余地があったな、という心残りもある。『デビルマン』との最も大きな違いは、「人間同盟」という巨大な組織を通して世界を描いたことだ。『デビルマン』では、悪魔の侵略というマクロな現象の中での、人間単位、家庭単位のミクロな状況を描いた。一方『レディー』では、世界的な混乱を大きなスケールで描こうとした。もっと余裕を持って描くことができたら、いろんな人物を主人公にして、多角的なストーリー展開に持っていったり、今回は幸せだった美樹ちゃんを、またもやひどい目にあわせたり……。機会があったら、もう一度挑戦してみたい作品だ。
『神曲』の世界にしても、もう1回くらい描けるんじゃないかなと思っている。レディーのような超人が地獄に行くと、派手なアクションものになるけれど、普通の人が、しかもダンテのように案内人に守られることなく、地獄に堕ちてさまようことになったら、一体どんな目にあうだろう。バラバラになっても死ねないで、何度も生き返って、魔物に襲われながら地獄を進むのだ。ようやく次の階層への出口を見つけても、またその先には、恐ろしい地獄が──。ひょっとしたらマンガよりも、ダンジョンもののRPGにしたほうが面白いかもしれない。どこかのゲーム会社で、作ってくれないかな。
<第46回/おわり>
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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