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悪魔とは、何なのか? 僕には、『デビルマンレディー』の中で描いたような事件が、実際に起き始めているように思える。人間がみんな、怒りっぽくなっているのだ。『レディー』を描いているときは、まだこういう状況になっていなかったけれど、こうなると、もはや「人間がデビルビースト化している」としか思えないときもある。


未来からやってくる者
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最初に結婚したときの写真……ではなくて、知人の結婚式で新婦と。
『デビルマンレディー』で地獄を描いたのは、現実世界だけでは話が完結に向かわない気がしたからだ。そのとき、『ダンテ神曲』を思い出して、「地獄に行けばなんとかなるんじゃないか」とカンが働いて、レディーに地獄巡りをしてもらうことになった。結果的に描いていて面白いものになったから、成功だったといえるだろう。でも振り返ってみると、別の理由もあったようだ。『デビルマン』のシリーズも連載で3回目だったし、外伝や読み切りもいくつか描いていたし、そろそろ“悪魔”という存在を突き詰めてみたい、という気持ちが、自分の中に芽生えてきたのだ。

 古代から“悪魔”や“天使”の存在が、連綿と言い伝えられている。それも、かなり具体的な姿を伴っている。これは一体どうしたことだろうか。大昔には実際に悪魔や天使がいたのだろうか、でも、悪魔や天使の化石とかが出土するわけではない。といって、悪魔も天使も想像上の存在だと片付けるのは簡単だけれど、聖書を書いた人たちは、どうやってそのイメージを得たのだろうか。実際に「見た」ということも、考えられるんじゃないだろうか。現に聖書には、そう書いてある。

 そこで仮説として、悪魔あるいは天使は「過去に人間が予測した、人間の未来の姿だ」という考えはどうだろうか。これまでは自分の中でもなんとなく、悪魔も天使も人間とは切り離して、別の存在だと理解していた。でも『レディー』を描いていて、「そうか、人間が悪魔になることもありうるな」と気が付いたのだ。自分で描いていて「気が付いた」というのも、ヘンな話だけれど。

 過去にいなかったのなら、遠い未来に人間が、2種類の異形な存在に進化するとしたらどうだろう。そして、僕の作品『鬼-2889年の反乱-』ではないけれど、彼らが何かの目的で、時間をさかのぼって過去の地球に現れたとしたら──。彼らはそれぞれに過去の人間を、自分たちが進化した方向へ導こうとするかもしれない。どちらも当時の常識を上回る力を持っていただろうし、一方は天使と呼ばれて崇拝され、一方は悪魔と呼ばれて恐れられたかもしれない。

 この仮説を思いついたのは、『週刊漫画アクション』で連載している『キューティーハニー天女伝説』の中で、最大の敵であるシスター・ジルの正体を描き始めてからだ。どうやら、彼女の正体もまた、デーモン=悪魔のようなのだ。しかし、『デビルマン』での「地球の先住民族」としてのデーモンではない。また、『デビルマンレディー』での「地獄からの波動により異常進化した人類」としてのデビルビーストでもない。『ハニー』では、それらの概念を両方併せた形で悪魔を定義しようと考えた。

 いま描こうとしていたシスター・ジルの世界は、人類が力を求める過程で、悪魔への進化を求めた世界だ。そのゆがんだ理想を実現するために、シスター・ジルは過去へさかのぼり、現在の人類を悪魔への進化の歩行へ導こうとしている。無理矢理な設定だといわれるかもしれないけれど、そういう未来もあるかもしれない。あるいは、悪魔と天使の上位に位置する“神”だって、人類の究極進化の形としてあるかもしれない。


進化の陰にある意志
 こういうことは、もちろん全部僕の想像にすぎない。でも、全くありえないことでもないと思っている。「進化」という現象を考えてみても、地球上に単細胞生物が出現したのちに、何らかの後天的な原因でここまで進化してきた、といわれている。その原因は、単に住んでいた環境なのだろうか。でもそうだとすると、同じ環境に何種類もの生物がいることが説明できないし、第一ここまでバリエーションに富んだ生物は、地球上に生まれないだろう。全部が全部、偶然なのだろうか。

 そう考えると、古い進化論にあった「キリンは、高い枝の葉を食べるために首が長くなった」という説は、案外正しいのかもしれないとも思える。生物は、より強くありたいと思ったがために巨大化し、より賢くなりたいと願ったおかげで知能を手に入れた。現在の人間でも、肉体や精神を高めるために、さまざまな修行やトレーニングをしている。そして、肉体的にも精神的にもどんどん向上している。さらに、遺伝子操作など人為的な変化も加わるだろう。もっと強くなりたい。もっと長生きしたい。もっと美しくなりたい。その先に、人間が悪魔や天使になる道がないと、断言できるだろうか。

 最近の事件を見ていると、衝動的に無関係な人に暴力を振るったり、無差別に他人を殺したりというものが多い。僕には、『デビルマンレディー』の中で描いたような事件が、実際に起き始めているように思える。人間がみんな、怒りっぽくなっているのだ。『レディー』を描いているときは、まだこういう状況になっていなかったけれど、こうなると、もはや「人間がデビルビースト化している」としか思えないときもある。

 もっと怖い考え方もできる。生物が誕生したとき、最初から「進化の設計図」を持っていたとしたらどうだろう。だとすると、ここにきて人間が見せている凶暴化は、設計図にあらかじめ描かれていたことで、今まさに何万年に一度の、思いっ切り急激な進化の瞬間に来ているのかもしれないのだ。その「進化の設計図」は、誰が描いたのだろうか。人間を引っ張る、人間以外の「意志」というものがあるのだろうか。

 作品に描いたことが現実になるのは、作家として嬉しいこともあるけれど、人間の未来についてだけは、僕の想像した姿が現実になってほしくない。人間が幸福な未来を迎えるかどうか、それはひとえに、人間がどうなりたいという意志を持つかにかかっていると、僕は思うのだ。


<第47回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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