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『けっこう仮面』は、担当編集者からの注文で、エッチものというつもりで描き始めたのだけれど、同時に僕の作品の中でも、代表的な“パロディーマンガ”となった。実は僕は、大のパロディー好きなのだ。パロディーの感覚は、いつ身についたのだろうか。やはり幼い頃から落語を聴いていたせいで、斜(はす)に構えたり、物事を茶化したりするようになったのだろうか。 |
前にも書いたけれど、僕がデビューしたころは、少年誌で女性が主人公のマンガは「絶対受けない」といわれていた。しかし『キューティーハニー』をヒットさせてから、僕に限ってはそういうこともいわれなくなり、スーパーヒロインを主人公にした作品をたくさん描いてきた。その中では、『ハニー』に次いで人気があるのが『けっこう仮面』だろう。3回も実写でビデオ映画化されたし、OVAも2話が製作されている。 そもそもは、『ハレンチ学園』の担当編集者Aさんが『月刊少年ジャンプ』に異動して、読み切りを依頼しに来たのが始まりだった。そのとき僕は、連載を4本も抱えていたけれど、「まあ、読み切り1回だけなら描けるかな」と引き受けることにしたのだ。どんな作品を描いたらいいのか、Aさんに聞いたところ、キッパリと「カタいのはダメよ、カタいのは。エッチもの!」と言われた。 そうかエッチものかと、了解はしたけれど、とにかく忙しくてストーリーを考えている時間がない。それに、ただのエッチものだと、今ひとつ乗り切れない感もあった。そこで思いついたのが「パロディーものにしよう」ということだった。僕には前々から、1回パロディーをやってみたい作品があった。『月光仮面』だ。僕らの年代だとヒーローものの中では、特に『月光仮面』に特別な思い入れがあるのだ。 尊敬する作品だけに、中途半端なパロディーにするのはかえって失礼だ。僕は、思いっ切り派手に変えてしまうことにした。まず、主人公を女の子にした。次に、月光仮面は白装束だったから、赤い衣装にした。また半月のマークを、丸い太陽マークにした。女の子だから、ウサギの耳みたいなマスクにすると可愛いかな。そうなると下は、全身ハダカというのが一番インパクトがあるな──。というわけで出来たのが、『けっこう仮面』だ。名前の由来はもちろん、こんなけっこうなヒロインはいないからだ。 さらに悪ノリして、他の登場人物もパロディーで固めることにした。『月光仮面』には「サタンの爪」という敵のボスが登場していたが、当時のテレビの特撮技術の限界だったのか、被りモノの頭が とにかくデカかった。『けっこう仮面』にも「サタンの足の爪」という敵のボスを出した。戦う相手も「血車狂の介」という名前にした。当然、往年の時代劇マンガの名キャラクターである、矢車剣之助のパロディーだ。 1回だけの読み切りで終わるはずの作品だったが、エンディングでサタンの足の爪が倒れるとき、「次は必ずやっつけてやるぞ、けっこう仮面!」みたいなことを言わせてしまった。お約束の台詞なのだけれど、「あ、これはもう1回描いてもらえますね」「……じゃあ、もう1回描きましょうか」となり、もう1回1回で、気が付いたら3年くらい連載してしまった。月刊誌ということもあり、読み切り連載だったので、途中で「もうこうなったら、片っ端から有名なマンガのキャラクターのパロディーをやってしまおう!」と決意した。そして、鉄腕アトム、リボンの騎士、鉄人28号、サイボーグ009と、他人のキャラクターを使いまくった。ちなみに009の回では、文化系クラブに身を隠した悪の9人組「裁縫部009」というのを描いた。 |
もっとも、僕がマンガで描くパロディーは「笑い」であって、「風刺」ではない。早い話が「冗談」だ。だから、まともに怒られると困ってしまう。『けっこう仮面』を描いているときは、手塚治虫先生も、石ノ森章太郎先生も、何一つ文句をいってこられなかった。こんなところで怒ったら恥ずかしい、と思われたのだろう。『ビッグコミック』(小学館)で、連載中の『ゴルゴ13』のパロディー『ゴルゴハイティーン』を描いたときも、作者のさいとう・たかを先生からは何も抗議などなかった。 ただし、作品のファンが怒るケースはある。『けっこう仮面』の「裁縫部009」のときは、石ノ森先生のファンからカミソリが送られてきたし、『シャーヤッコ・ホームズ』で「ベルサイユのバラバラ殺人事件」というのを描いたときも、カミソリが届いた。どちらも有り難く使わせてもらったけれど。また、ごくまれには、パロディーをやられた人から怒られる場合もないではない。『ウルトラセブン』のパロディー『ウスラセブン』を描いたときには、円谷プロから『少年ジャンプ』編集部に抗議が来たらしい。 そうそう、『けっこう仮面』じゃないけれど、マンガでパロディーをやったせいで、ものすごく緊張した事件があった。梶原一騎先生がご存命の頃、梶原先生原作の『柔道賛歌』というマンガがあった。かつて女・三四郎の異名を取った女性柔道家と、その息子・巴突進太が、あまりの修行の激しさに“母子シャチ”と呼ばれながら、柔道を極めようとする話だ。僕はさっそく『おいら女蛮』という作品の中で、「母子シャケ・巴追珍太(おっちんた)」というのを描いた。最後は主人公に負けて、道場の羽目板に頭をぶつけて「おっ死んで」しまうのだ。 『おいら女蛮』は『少年サンデー』だったので、安心していた。ところがある日、『少年ジャンプ』の新人賞授賞式パーティーで、なんと梶原先生と審査員の席で同席することになってしまったのだ。 <第48回/おわり>
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