永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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猥褻とエロティシズム このSM、それにスカトロは、大人の専売特許のようだけれど、本当はかなり「幼いエロティシズム」の発露なのかもしれない。すごく小さな頃から、恥ずかしいという感覚はある。いや、大人より強いかもしれない。それに、子供はウンコやオシッコなどの話を、非常に喜ぶ。やはり、性的な本能と繋がっているんじゃないだろうか。


恥ずかしさがエッチなのだ
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実兄で作家の泰宇(やすたか)氏と、雑誌の企画で。
 制約の多い少年誌の中で、毎回読者の男の子たちをドキドキさせるには、どうしたらいいか。その結論が“SM”の要素を取り入れることだった。『けっこう仮面』の前に描いたエッチ系の作品といえば、なんといっても『ハレンチ学園』だけれど、ここでも僕はすでにSM系のギャグを取り入れていた。女の子が先生たちにイジメられるのがそうだし、スカートめくりされて「イヤ〜ン!」なんてのも、幼児性のSMだといえる。

『けっこう仮面』で自覚してからは、その後のエッチ系作品では、意識的にSMの要素を出していった。『イヤハヤ南友』は、以前書いたように『バイオレンスジャック』中断の思いがあるから、特にすごかった。三角木馬とか、油のプールとか、手足を動物に引っ張らせるとか、弁天ゆりちゃんを中心にイジメまくった。しまいには、SMというよりはスカトロ系のギャグまで出してしまった。分津マリーという、何年もウンコをしていない女の子がいて、固まった宿便に肛門からドリルで穴を開け、浣腸液を注入すると……。

 文字で書くとものすごいけれど、ドタバタのギャグになっているから、安心してください。僕個人の場合、SMの趣味は……あるのかもしれないけれど、マンガに描いた時点で気が済んでしまう。それに、SMをやるには忙しすぎる。時間的にも精神的にも余裕がないと、SMなんて手の込んだコトはできない。よほどヒマな人でないと。そういう意味では、SMも文化なのだろう。

 スカトロも含め、SMの醍醐味とは何かというと、「恥ずかしさ」と「苦痛」だ。そして、女の子の「恥ずかしくて苦しい表情」は、セックスの恍惚の表情と同じなのだ。少年マンガ誌の読者の男の子は、セックスは知らなくても、そういう表情を見るとエロティシズムを感じる。だから、すごくエッチなマンガだということになる。テクニックとして見ると、女の子が悶える顔を思いっ切り描いておいて、「これはつねられてイタイから、こういう顔なんです」と説明するようなものだから、エッチに感じるはずだ。

 このSM、それにスカトロは、大人の専売特許のようだけれど、本当はかなり「幼いエロティシズム」の発露なのかもしれない。すごく小さな頃から、恥ずかしいという感覚はある。いや、大人より強いかもしれない。それに、子供はウンコやオシッコなどの話を、非常に喜ぶ。やはり、性的な本能と繋がっているんじゃないだろうか。

 そして、子供のSM感覚が極限までエスカレートすると、残酷な少年犯罪の原因になるのかもしれない。報道を見ると、事件を引き起こした少年は、ほとんどがその残酷な行為に「性的な興奮」を感じているようだ。こう書くと、「お前のようなマンガを描くヤツがいるから、少年が刺激されて、ああいう事件を起こすんだ!」という人がいるかもしれない。でも僕は、それは逆だと思う。性を「うしろめたいもの」「隠すべきもの」と考えて、子供の目に触れないようにするから、性的な衝動を発散できず、たまりにたまってついに爆発し、痛ましい事件が起きてしまうんじゃないだろうか。


エロティシズムは好き、猥褻は嫌い
 この「うしろめたいもの」「隠すべきもの」という考えから生じるのが、「猥褻」という感覚だ。裸も猥褻、セックスも猥褻、裸もセックスも「悪いこと」であり、「貶めるべきもの」だという。特に日本では、そうだ。暗く陰湿な、後ろ向きのニュアンスがある。でも、誰だって服を脱げば裸だし、イロイロがあった結果生まれてきているのに、そういう考え方はおかしいと思う。僕は、自分が描いているものは「エロティシズム」であって、「猥褻」ではないと思っている。僕の場合、エッチなものを見るのは大好きだし、うしろめたい感覚はなくて、明るい方向に爆発させているつもりだ。

 自分のエッチ系の作品が映像になると、この違いを痛感することがある。僕の明るいエッチを、監督が「猥褻」な方向に持っていく場合があるのだ。以前、『ハレンチ学園』が映画になったとき、マンガでは薄い三角のパンティーを、女の子たちにカッコよく穿かせていたのに、映画ではだぶだぶのパンツにされたことがある。監督はリアルにしたいと思ったのかもしれない。でも僕には、それが猥褻でイヤらしく感じられた。小学生が実際にどんなパンツを穿いているかなんて、エロティシズムとは関係ないと思うのだけれど。

 本で読んだ話だけれど、ある南の国に、腰に紐をゆわえているだけで、あとは何も着ていない部族がいるらしい。普段はそれで平気なのだけれど、この腰紐が取れると、すごく恥ずかしいらしいのだ。つまり、恥ずかしいという概念が、僕たちとは全く違うことになる。ということは、エロティシズムを感じる対象も、全然違うのだろう。エロティシズムとは、すごく個人的というか、文化的なものなのだ。しかもどんどん新しく作られていくし、変わっていく。天候の影響だって大きいだろう。

 もっといえば、僕には、人間の文化、ファッション、芸術と、あらゆる分野がエロティシズムを基本に出来ているんじゃないかとも思える。人間は、他の動物のように衝動で動くわけにいかないから、それを昇華させるために、文化やファッションや芸術に仕立てていったんじゃないだろうか。例えば、売れるモノの造形には、女性の体のラインが入っているという。コカ・コーラのビンは、有名な例だ。売れるモノ、人間が面白いと思うモノには、必ず性の要素があると言ってもいい。高尚な芸術とされている「バレエ」はどうだろう。『白鳥の湖』なんかを見ると、女の人はパンツ丸出し、男はモッコリ。どう見ても、明らかにエッチだ。

 では、僕のエロティシズムの「原点」は一体何なのだろう。自分なりの「萌えるポイント」があることがわかったので、次回はそれを書くことにする。


<第50回/おわり>

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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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