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恋愛ものやファンタジーSFなどは、やはり少年誌の読者には、なかなか受け入れてもらえない。僕がデビューして数年たつと、少女誌では『ポーの一族』『11人いる!』の萩尾望都さん、『地球(テラ)へ…』の竹宮恵子さんが人気を集めた。僕は「こういうのが描けてうらやましいなあ」といつも思っていた。 |
長いことマンガ家をやってきて、ずいぶんたくさんの作品を描いてきたけれど、それでもやり残してしまったこと、やれなかったことがある。まず、やりたくてもどこの出版社も受け入れてくれなかった企画、というのが結構ある。これらの企画は、時代が変われば、いつか描けるときが来るのだろうか。それとも、最初から読者が必要としていないものなのだろうか。いつかは日の目を見させてあげたい、と思っているのだけれど。 でも、何と言っても残念に思っているのは、一度「少女マンガ雑誌」で描いてみたかった、ということだ。手塚治虫先生、石ノ森章太郎先生、横山光輝先生など、僕が愛読していたマンガ家の方々は、みんな少女マンガを描いていた。少女マンガ雑誌は、少年マンガ雑誌よりも遅れて出てきたので、当時はまだ女性マンガ家の数も足りず、人気のある男性マンガ家は、みんな少女マンガ雑誌でも連載していたのだ。 手塚先生で言えば『リボンの騎士』『火の鳥』などがそうだし、石ノ森先生は『あかんべえ天使』『三つの珠(たま)』など、横山先生は『魔法使いサリー』『紅ばら黒ばら』など、それぞれ数多くの少女マンガを描かれている。ギャグマンガ家の赤塚不二夫先生だって、デビューは少女マンガ雑誌だし、『ひみつのアッコちゃん』という大ヒットした少女マンガもある。なのに、僕は、読み切りやギャグの連載はあるけど、一度もきちんとした連載マンガを少女マンガ雑誌で描いたことがない。まったくもって、うらやましい限りだ。 何がうらやましいって、石ノ森先生には、女の子のファンがたくさんいた。あれは絶対に石ノ森先生がモテたのではなく、少女誌で描いていたからに違いない! まあ、それは冗談だけれど、少女誌で描かせてもらえたら、少年誌とは違ったジャンルの作品が発表できたんじゃないだろうか。恋愛ものやファンタジーSFなどは、やはり少年誌の読者には、なかなか受け入れてもらえない。僕がデビューして数年たつと、少女誌では『ポーの一族』『11人いる!』の萩尾望都さん、『地球(テラ)へ…』の竹宮恵子さんが人気を集めた。僕は「こういうテイストの作品が描けてうらやましいなあ」といつも思っていた。 じゃあ、今からでも少女誌で描けばいいじゃないか、と思われるかもしれない。けれど、当時と違って、少女誌は女性作家の天下だ。それに、デビューしたての若い頃ならともかく、今の年代で女の子の心を掴むのは難しい。僕らの世代でも、弓月光さんや和田慎二さんなど、少女マンガ雑誌で活躍した方は多いが、ベテランになるに連れ、みんな徐々に青年誌へと移行していった。だから僕にとって、少女誌で描くということは、永遠に心残りなのだ。 それでも、あんまりくやしいから、なんとか少女マンガ的なものを少年誌でできないか、と思って描いたのが『キューティーハニー』だ。この『キューティーハニー』、実は1回だけ少女誌で描けるチャンスがあった。アニメ化が決定した時に、『ちゃお』(小学館)でマンガ版を連載することになったからだ。僕は、「ようやく永年の願いが実現するぞ!」と喜んだのだけれど、結局「やっぱり、少女マンガ家の方にまかせましょうよ」という話になってしまった。僕は、飯坂友佳子さんが描いてくれる『キューティーハニーF(フラッシュ)』を、「うーん、残念!」と指をくわえて見ているしかなかった。 |
だけど、中にはハッキリしたイメージは決まっていなくて、漠然とした依頼もある。「ギャグで」「ハレンチもので」「バイオレンスもので」というような依頼だ。あるいは、過去の作品から「デビルマン的な方向で」「もう1回ロボットが見たいですね」という依頼も、最近は結構ある。今の編集者は、僕の作品を読んで育った人たちだから、年代によって例に出される作品が違うのが面白い。 そういうわけで、どうしても最近は、過去の作品のリメイクの依頼が増えている。自分としては、自分の作品のリメイクよりは、全然違う新しいものを描きたいという気持ちが強い。だから、何とか前作とは違う切り口で描くようにしている。『マジンガーZ』の場合で言うと、精神世界へ入り込んでみようと思って『マジンサーガ』を、日本も現代も離れてギリシア神話の世界へ行こうと考えて『Zマジンガー』を描いた。 完結しないまま終了した作品も多いので、そういう場合は、ちゃんと結末を描くために再挑戦することもある。だが、『魔王ダンテ』もそうだったけれど、「雑誌も別だし、読者も新しいし、前の『ダンテ』を知らないだろうし……」と考え出してしまい、結局、全く違うストーリーで一から描くことになってしまった。 だから、自分の作品を自分でリメイクするよりも、他の人の手でリメイク、あるいはカバーしてもらうほうが楽しい。ちょっと前には『ネオデビルマン』シリーズ、現在では『アモン』など、カバーしてくれた若いマンガ家の皆さんは、本当にいい仕事をしてくれて楽しかった。 ところで実は、自分の作品のカバーをしてもらうばかりでなく、僕も「他のマンガ家さんの作品をカバーしてみたい!」という野心があるのだ。でも現実には、マンガの本質的な問題がからんでいて、なかなか難しい。次回は、そのへんの話をしたいと思う。 <第52回/おわり>
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003 (c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2002-2003 |
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