永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

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リメイクは難しい 例えば、僕は石ノ森章太郎先生のチーフ・アシスタントをやっていたので、『サイボーグ009』をソックリな絵で描くことができる。だから、石ノ森先生が亡くなったあと、『009』の結末の絵コンテが発見されたとき、「永井豪さんなら『009』を完結させられるんじゃないですか?」と聞かれたことがあった。


『009』完結編を僕が描く?
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夏に旅行に出かけた、海の近くの旅館で。
 音楽では、他人の歌をカバーするということが普通に行われている。映画でも、古い映画がリメイクされることがよくある。けれど、マンガの場合はあまりカバー、またはリメイクの例がない。マンガの場合は、歌の歌詞と違って、台詞を一字一句同じに作るわけにはいかない。だから、カバーというより、映画と同じく「リメイク」と呼ぶことにしよう。

 僕は、自分の作品を他のマンガ家の方に、よくリメイクしてもらっている。珍しい例だと思う。『キューティーハニー』『デビルマン』『けっこう仮面』がそうだし、『デビルマン』では、イラストレーションだけでもたくさんの方に描いてもらった。最近、手塚治虫先生の『鉄腕アトム』を、浦沢直樹さんがリメイクしているけれど、ほかにはあんまり聞いたことがない。

 マンガのリメイクが少ない理由のひとつには、他人に自分の作品をいじられるのがイヤだ、という考え方があるからだろう。また、権利関係も絡んでくる。僕の場合は、へっちゃらだ。というより、他の人にリメイクしてもらうとすごく嬉しい。

 さらに、大きな理由として、「リメイクが可能な作品」を描く人が、意外に少ないんじゃないか、ということがある。マンガの面白さというのは、ストーリーと絵柄だけじゃない。いろんな要素が合わさって、作品の面白さを形作っている。中でも大きいのは、「キャラクターの性格付け」だ。ここに作者の個性や性格が反映されていて、それがマンガのキャラクターの魅力になっている場合が多い。だから、ある作家のキャラクターを他人が描くと、なんだか別のキャラクターになってしまった、という結果が生じる。

 例えば、僕は石ノ森章太郎先生のチーフ・アシスタントをやっていたので、『サイボーグ009』をソックリな絵で描くことができる。だから、石ノ森先生が亡くなったあと、『009』の結末の絵コンテが発見されたとき、「永井豪さんなら『009』を完結させられるんじゃないですか?」と聞かれたことがあった。でも、たぶん無理だと思う。僕が描いたら、主人公・島村ジョーや他のサイボーグ戦士たちのキャラクターが、どんなに同じにしようと思っても、どこか変わってしまうと思うのだ。


手塚作品のリメイクがやりたい!
 作品としての出来不出来は別として、石ノ森先生のファンの方にとって、それは我慢ならないんじゃないだろうか。きっと、いくら絵をソックリに描いても、「これは『009』じゃない!」というお叱りの声がたくさん飛んでくるだろう。もし石ノ森先生自身が結末を描かれていたら、仮にどんな駄作になったとしても、ファンの方は納得しただろうけれど。ファンの方というのは、それくらい作品を愛しているのだ。

 もっとも、今『マガジンZ』(講談社)で、『仮面ライダー』のリメイクである『仮面ライダーZX(ゼクロス)』(『仮面ライダーSPIRITS』第2部)が連載されている。でもこれは、正確には石ノ森先生の作品のリメイクというより、実写特撮番組版のマンガによるリメイクと言ったほうがいいだろう。実写のファンは嬉しいと思うけれど、原作マンガのファンはどうなのだろうか。

 僕の作品がよくリメイクされる理由は、僕が作品の中に「コアな(核になる)部分」を作っているからだと思う。つまり、キャラクターに反映された僕の感性とか個性が、作品の面白さを担っているのではなくて、キャラクター設定やアイディア、ストーリー、絵柄などそのものに、面白さのポイントがあるからじゃないだろうか。

 それでも、自分の作品を他の方に描いてもらうときには、「僕のに近づけようとするとダメになっちゃうから、好きなように変えてやってください」とか、「自分流でやってくれるんならOKです」と言うようにしている。そうしないと、僕が作ったキャラクター像に縛られて、その方のキャラクターが動かなくなるからだ。キャラが動かないと、ストーリーも動かない。つまり、失敗作になってしまうのだ。

 僕だって、他の人の作品をリメイクしてみたいなあ、と思うことがある。特に、子供の頃ファンだった手塚治虫先生の作品は、やってみたい。もし、なんでもやっていいということになったら、どうするだろう。『火の鳥』など、完成されているものをやっても仕方がない。そのまんま描いても面白くないのだ。やはり、浦沢さんのように、短編が素材になりそうだ。なにしろ手塚先生と石ノ森先生には、「もったいない! こんなアイディアをこんな短編で使って」というのがあったりする。

 あるいは、お二人はマンガではなく「絵物語」的なものもたくさん描かれているから、そういうのを、ちゃんとマンガとしてリメイクするのも面白そうだ。そういえば、『ダンテ神曲』も、ドレの絵を使ったダンテの絵物語に触発されて、僕がマンガ化したものだ。絵物語というのは、絵と絵の間には何があるのか、ものすごくイマジネーションを刺激する。描いていて楽しいリメイクだ。

 とにかく、マンガのリメイクというのは本当に難しい。何しろ、僕が自分の作品をリメイクしても、ファンの方に「違う! これは○○じゃない!」と言われてしまうことだってあるのだから。もう、散々である。正直言って、「もうっ、そんなに言うんなら自分で描いてみてよッ!」と、ファンの方に言いたいときも……。いや、そこまで作品を愛してくださるというのは、ありがたいことですよね。ホント。


<第53回/おわり>

(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003
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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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