出演をOKしたのはいいけれど、役柄を聞いたら「佃煮評論家です」と言われた。何だろう、佃煮評論家って。しかも「衣装がないので、自前の服で出てもらえませんか」という。とにかく、低予算の映画なのだ。いろいろ考えて作務衣(さむえ)を着ていったら、ロイドは「おお! あなたはゼッタイに佃煮評論家だ!」と、よくわからないけれど大喜びしてくれた。 |
『マジンガーZ』シリーズや『デビルマン』のアニメは海外で放送されているので、嬉しいことに映画やマンガ関係のフェスティバル、コンベンションからお誘いを受けることが多い。おかげで、海外のアーティストたちにも、たくさん友だちができた。いずれも才能ある人ばかりで、会って話をしていると楽しいだけでなく、刺激を受けることも非常に多い。そんな僕の海外の友人たちをご紹介しよう。 まず、ヘヴィメタルバンド「メタリカ」のギタリスト、カーク・ハメットさん。「メタリカ」と言えば、グラミー賞がヘヴィメタル部門を新設させたほど、人気も実力も兼ね備えたロックバンドだ。カークは昔から『デビルマン』のファンで、最初に来日した時に雑誌の企画で「メタリカ」全員と対談をしたのが、お付き合いのきっかけだ。後日自宅に招待してパーティーをやった時には、うちの奥さんのギターを弾いて、それにサインをしてくれた。結婚直後に来日した時には、新婚の奥さんを紹介してくれた。今でも来日する際には、必ずコンサートへの招待状を送ってくれる。 音楽関係の人で言うと、テクノバンド「ディーヴォ」のベーシスト、ジェリー(ジェラルド・V・“ジェリー”・キャセール)も友人だ。きっかけは、モダンプロップという映画の小道具を作っている会社の社長であるジョン・ザブラッキーさんと、映画のコンベンションを通じて知り合ったこと。その後ジョンが、友人だったジェリーを紹介してくれたのだ。この二人も、僕の自宅に一緒に遊びに来たことがある。
長いこと会ってないけれど、デビッド・ニューマンという映画の音楽監督とも気があった。彼の父親も、アルフレッド・ニューマンという作曲家で、『南太平洋』などでアカデミー賞を取っている人だ。従兄弟にはランディー・ニューマンという、アメリカでは有名なシンガー・ソングライターがいる。この人もついに2003年、『モンスターズ・インク』でオスカーを取った。という、まさに映画音楽一家で、以前彼のマリブの自宅に遊びに行ったときには、たくさん並んでいるオスカーの列(ほとんどパパのだけど)にビックリしたものだ。 そういえばデビッドと出会ったのは、日米合作の劇場アニメがアメリカで企画されて、僕がアドバイザーで呼ばれてロスに行ったときだ。そのアニメの音楽監督がデビッドだった。ところがプロットを読んだら、日本のやんごとないお方がデブデブの悪役で、毎夜ゲイシャ・ガールと酒池肉林……というものすごい部分があった。「これ、日本では本気でマズいよ!」「え、でもファンタジーだから」「悪いことは言わないから、将軍にしなよ」ということで、監督にプロットを変えてもらった記憶がある。幸か不幸か、そのアニメは製作まで至らなかったようだけれど。 |
いろんな海外の友人の中で特に仲がいいのが、夕張や東京のファンタスティック映画祭で何度も会ううちに親しくなった、映画監督のロイド・カウフマンだ。カルトホラー映画の怪作『悪魔の毒々モンスター』を撮った人、と言えばわかるだろう。彼はいくつかの「毒々シリーズ」を製作しているけれど、その中の『悪魔の毒々モンスター、東京へ行く』では、題名通り東京が舞台で、来日前にプロデューサーから、僕に「出演しませんか?」という話が来た。「もう絶対出る!」と、僕は二つ返事でOKした。 出演をOKしたのはいいけれど、役柄を聞いたら「佃煮評論家です」と言われた。何だろう、佃煮評論家って。しかも「衣装がないので、自前の服で出てもらえませんか」という。とにかく、低予算の映画なのだ。いろいろ考えて作務衣(さむえ)を着ていったら、ロイドは「おお! あなたはゼッタイに佃煮評論家だ!」と、よくわからないけれど大喜びしてくれた。「台詞はあるんですか?」と聞くと、「台詞はあるんだけど、脚本がないから、適当に喋ってくれない?」と言う。関根勤さんがインタビュアーで、佃煮評論家(僕)に話を聞く、というシーンだったのだけれど、仕方ないから「佃煮というものはですね、美味しく作るにはコツがあって、まず……」と、もう口から出まかせを喋るしかなかった。 撮影したのは6月で、ちょうど梅雨の真っ最中だった。僕の出番の日も、ずっと小雨。ロイドに「よくこんな時期に撮影に来たね」と聞くと、「日本のスタッフに騙されたんだ!」という。日本のスタッフに聞いてみると、「ええ、確かに騙しました。梅雨時は撮影の仕事がなくてヒマだから、そうだ、ここに入れよう! と思って」と悪びれずに答えてくれた。察するに、相当安い予算だったのだろう。ロイドたちアメリカのスタッフは、といってもあとはカメラマンしかいないのだけれど、来日している間は、それは狭いウイークリーマンションを借りて住み、「すごく安いんだよ」と喜んでいた。アメリカの撮影では、いつも俳優を自宅に泊まらせて、予算を節約するらしい。 ロイド・カウフマンは、コロンビア大学を出た秀才なのだけれど、ああいう馬鹿馬鹿しい映画──誉めているのだけれど──ばっかり撮っている。自宅に来たときに、僕が実写版『けっこう仮面』のビデオを魅せたら、手を叩いて喜んでいた。そういうところが、僕と気が合う理由だろう。 『悪魔の毒々モンスター、東京へ行く』、是非ご覧ください。ものすごい映画ですから。ただ、同じシーンで雨が降ったり降らなかったりしていても、気にしないようにね。 <第61回/おわり>
(c)永井豪/ダイナミックプロダクション2002-2003 (c)Go Nagai/Dynamic Production Co., Ltd. 2002-2003 |
|
|