永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所

2004年、そしてこれから 『無頼・ザ・キッド』という僕の作品がある。人口減らしのために、銃が合法化された近未来を描いた学園SFモノだ。今だから言うけれど、実はこの作品は、最初は学園モノになる予定じゃなかった。「もしも、日本人がメイフラワー号よりも早くアメリカ大陸に渡っていたら、世界はどうなっていただろう?」という、「もしもの世界」を描きたいと思っていたのだ。


2004年は永井豪イヤー?
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『キューティーハニー』製作発表会で。(撮影/永井淳子)
 2004年になると、春から夏にかけて、僕の作品が3つも実写映画になる。『けっこう仮面』『キューティーハニー』そして『デビルマン』だ。『けっこう仮面』はいわゆるVシネマだけど、劇場公開もあるから、映画と言っていいだろう。僕の作品、アニメ化は過去にたくさんあるけれど、実は実写映画化はほとんどない。劇場映画だと『ハレンチ学園』('70製作)だけ、ビデオを入れても『けっこう仮面』(1〜3.'91〜'93製作)くらいだ。ちょっと前までの技術では、実写化はアニメ化に比べて、莫大な予算がかかったからだろう。だから今後の3作品の実写化は、本当に嬉しい。

 最近になって、実写映画化の企画が次々と起きてきた。その理由としては、まず世代的な変化が考えられる。僕のマンガで育った世代が、ようやく各業界で、決定権のあるポストに就く年代になったんじゃないだろうか。そういう人たちが、「実写で観たい」「映画作りたい」という機運を作ってくれているのだろう。また、技術的な進歩もあるだろう。CGで、どんなマンガでも映像化できるようになった。たとえば『マジンガーZ』を実写で映画化しようとしたら、セットと特撮に、何十億、何百億かかったかわからない。けれど今なら、CGを使えばもっと安くできるはずだ。だから、これからが本当に楽しみでならない。2004年公開の『キューティーハニー』も、試写で観たけれど、CGを使ってすごい効果を出すことに成功している。

『デビルマン』には、過去にハリウッドから何度か、実写映画化の話が来たことがある。ヘンなものになりそうだったり、権利関係が怪しかったりで、残念ながら諦めざるをえなかった。だから「まず、日本でやりたい!」と思っていたのだが、今回、CGやアクションでは、「『デビルマン』なら是非」と、ハリウッドで仕事している日本人スタッフまでもが集結してくれたのだ。『ハニー』も、人気絶頂のサトエリ(佐藤江梨子)ちゃんが演じてくれることになった。美人でパーフェクトボディー、それでいてマンガチックでコミカルなキャラクターは、ハニーにピッタリだと思う。

 今後の勝手な希望としては、あらゆる作品を実写化してみたい。特に、『マジンガーZ』と『デビルマンレディー』『バイオレンスジャック』が映画になったら嬉しい。お金をかけて作れば、すごい映画になると思うんだけど、映画関係者の皆さん、いかがでしょう。

 ところで先日、うちの社長が「うちの会社も、体力がついたら、是非映画に投資しようと思うんだ」と言っていた。それを聞いた時には、僕は思わずニヤリとしてしまった。なぜなら、僕は『永井豪のこわいZONE』『極道忍者 ドス竜』という映画で、監督をやったのだけれど、それが面白くて面白くて、また監督をやってみたくてたまらないのだ。しかし、僕のニヤニヤ笑いに気が付いた社長に、「豪先生監督の映画だったら、金は出しませんからね!」と釘を刺されてしまった。ザンネン!


次回作のアイディア公開!
 映画のことは置いといて、肝心のマンガ作品でも、来年以降にチャレンジしてみたいものがいくつかある。以前に書いた、中国モノをやってみたい、というのもそうだ。でも一番やってみたいのが、「リアルな世界でのファンタジー」、別の言葉で言えば「もしもの世界」を舞台にした作品だ。僕の作品の世界は、ロボットが登場する未来だったり、悪魔や鬼、妖怪といった「人外」が主人公だったりと、SF・ファンタジー性の強いモノが多い。それは、これまで「『もしもの世界』を舞台にした作品は売れないだろうな」と思っていたからだ。

『無頼・ザ・キッド』という僕の作品がある。人口減らしのために、銃が合法化された近未来を描いた学園SFモノだ。今だから言うけれど、実はこの作品は、最初は学園モノになる予定じゃなかった。「もしも、日本人がメイフラワー号よりも早くアメリカ大陸に渡っていたら、世界はどうなっていただろう?」という、「もしもの世界」を描きたいと思っていたのだ。主人公の無頼万次郎という名前も、日本人で初めてアメリカ大陸に渡った、ジョン万次郎からいただいたくらいだ。

 日本人が最初にアメリカ大陸に渡っていたら、西部劇はどうなるだろう。インディアンとの戦いは、拳銃ではなく刀だ。ビリー・ザ・キッドは、きっと無頼・ザ・キッド。短剣投げか居合い抜きでは、誰よりも速いという男だ。さらに、どんどん歴史は狂っていって、現在のアメリカは──アメリカという国名ではないだろうけれど──、みんな着物を着て刀を差して、車やオートバイに乗る国になっているんじゃないだろうか。そういう話を書きたいと当時の担当編集者に言ったら、「面白いですけど……売れないでしょうね」ということで、学園モノのSFにすることになった。

 他にも、アイディアはたくさんある。徳川家康が失敗して戦国時代がもっと続いていたら。そういう歴史の中で、戦国時代に宮本武蔵や佐々木小次郎が登場したら。あるいは戦国時代に、ものすごく大量の拳銃が持ち込まれていたら、関ヶ原の合戦は、馬に乗ってガンベルトを巻いた侍たちの銃撃戦だったかもしれない。ほかにも、ジンギスカンが世界を征服していたら、世界はどうなっていただろう、とか。そういう「もしも」を、文化シミュレーションとして描いてみたいのだ。

 アメリカでは、小説でも映画でも、結構こういうジャンルの作品があって、しかも売れている。あの『スター・ウォーズ』にしたって、あの登場人物たちの服装や風俗を見ると、「日本が征服した世界の未来」に違いない。だって、着物を着てチャンバラやっているのだから。『エピソード2』のストーリーなんて、まるっきり時代劇の関所破りだ。余談だけど、オビワン・ケノビの役は、最初は三船敏郎に依頼が来たらしい。「スピルバーグ? そんな奴は知らん!」ということで、断ったらしいけれど。そろそろ日本でも、そういう作品が受け入れられる時代になっていないだろうか。この「もしもの世界」は、是非これからやってみたい作品だ。そのうちきっと描くと思うので、どうか覚えておいてください。


 さて、約1年半にわたって続けてきた『豪氏力研究所』ですが、ついにこれで最終回となります。長い間、ご愛読本当にありがとうございました。2004年には、3本の映画のほかにも、雑誌での新連載もあるし、この連載も本になります。また、写真集やキャラクターグッズ、アニメの企画もたくさんあります。

 皆さん、どうかお元気で!


<第68回/おわり>

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永井豪(ながい・ごう)
1945年9月6日、石川県輪島市に生まれる。石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、'67年『目明しポリ吉』でデビュー。'68年『ハレンチ学園』を連載開始、たちまち大人気を博し、以後現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を大量に執筆し続けている。代表作は『デビルマン』『マジンガーZ』 『凄ノ王』『キューティーハニー』など多数。


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