永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所
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うちの奥さんとの出会い 取材にやってきた彼女を見て、自分で言うのは恥ずかしいけれど、「うわあ、きれいな人だなあ……」と驚いた。彼女は実に熱心に話を聞いてくれて、報知新聞のコラムでとてもいい紹介記事を書いてくれた。「きれいで、やさしくて、仕事熱心で、才能もある。あんな人がいるんだなあ」と、僕は感心した。


「きれいな人だなあ……」
 さて、ここまで仕事の話ばかり書いてきたが、編集部が「プライベートな話もどうですか? 例えば女性関係とか」という。そこで思い切って“女性関係”の話をしてみよう。と言っても、自慢できるような華麗な女性遍歴はないので、うちの奥さんについて書いてみたい。僕にとって奥さんは、人生の大切なパートナーというだけではなく、仕事をする上でも、アシスタントや会社のスタッフと同じく、絶対に欠かせない存在なのだ。

 最初にうちの奥さんと出会ったのは、昭和51年。着ぐるみ人形劇の劇団「どんがら座」の設立がきっかけだ。ある日、ある人形劇団にいた海阪という高校の同級生がやってきて、「独立して人形劇団をやってみたい。資金を出してくれないか?」と、僕に相談を持ちかけてきた。当時僕は、少年漫画誌での連載をたくさんやっていたので、低年齢向けのエンターテインメントには、もちろん興味がある。それに、紙の仕事と違って、舞台をやるということがすごく楽しそうだった。僕は、劇団のスポンサーを引き受けることにした。

 劇団員も集まって、着ぐるみも揃ってきて、いよいよ劇団の立ち上げということになった。まず、劇団の設立と初公演の宣伝をしなければならない。すると海阪が、「オレたちの1年後輩が、報知新聞のデスクをやっているから、ヤツに相談しよう」と言う。その男に連絡すると、「いい人がいますよ。うちでそういう関係のコラムを持っている女性のライターさんです」と紹介してくれたのが、現在の僕の奥さんだった。

 取材にやってきた彼女を見て、自分で言うのは恥ずかしいけれど、「うわあ、きれいな人だなあ……」と驚いた。彼女は実に熱心に話を聞いてくれて、報知新聞のコラムでとてもいい紹介記事を書いてくれた。「きれいで、やさしくて、仕事熱心で、才能もある。あんな人がいるんだなあ」と、僕は感心した。

 数日後、突然彼女から連絡があった。「新聞だけじゃ宣伝が足りませんから、私がレポーターをしているTV番組に出ませんか?」と言うのだ。僕は喜んでその言葉に甘えることにし、カッパやカミナリさまの着ぐるみたちと一緒にTVに出て、ショーをやって、インタビューに答えた。その頃僕は『ハレンチ学園』のおかげで、「子供の教育上よくないマンガを描く人」として悪名高かったのだけれど、彼女は、「その永井豪が、実は子供たちのために、かわいらしい人形劇団をやろうとしているんですよ」、という主旨の番組を作ってくれた。


最初のデートは、恋愛問題の相談
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南国を行く、怪しい探検隊(アシスタントさんたちと)。
 その後も彼女は、いくつかの雑誌などを使って、劇団の取材をやってくれた。おかげで劇団は順調に立ち上がることができた。「こんなに協力してもらって悪いな」と思った僕は、何か御礼をしたいと思い、彼女と、紹介してくれた報知新聞の後輩を食事に招待した。その場で彼女は、僕にいろんな話をしてくれた。芸能人や野球選手などいろんな有名人を取材した時のこと。横浜に住んでいるということ。いつも自分で車を飛ばして仕事に行くこと。歌手デビューしたこともあるが、ロックが好きなのに歌謡曲路線にされたのでやめたこと。

 いろんな話から想像するに、彼女はたくさんの取材や締め切りを抱えて毎日飛び回っており、ほとんど寝るヒマもないようだった。僕も仕事で同じような状況だったので、ますます彼女に親近感を覚えた。でも同時に彼女には、マスコミで活躍している人の華やかさと、仕事に燃えている輝きと、自立したクールな雰囲気があった。だからその時僕には、「素敵だけど、違う世界の人だなあ」「自分には、縁がない人だなあ」と思えた。おかげで僕は、かえって緊張せずに話をすることができたのだけれど。

 そういう話の中で、彼女はその時報知新聞で、別のペンネームを使って「占い師」をやっていることがわかった。生まれつき、すごく霊感が強いのだという。僕はそれを聞いたとたんに、「そうだ、この人に相談しよう」と思った。実はその頃、ちょっと恋愛問題で悩んでいることがあって、誰か信用できる女性に相談したいと思っていたのだ。そこで、「悩み事があるんですが、今度観ていただけませんか?」と聞くと、「いいですよ」と快く引き受けてくれた。

 食事をした1〜2週間後に、今度は二人で会って、悩み事についての相談にのってもらい、どうしたらいいかを占ってもらった。彼女は、すごく親身に僕の悩みを聞いてくれて、鋭く的確なアドバイスをしてくれた。そのうち、また相談したいことが出来て連絡すると、彼女はすぐに駆けつけて、相談にのってくれた。僕は「ああ、本当にいい人だなあ」と、すっかり彼女に甘えるようになってしまった。そうやって、二人で会っては話をしているうちに、もともとの悩みはだんだんどうでもよくなってきた。そして僕は、いつの間にか彼女を好きになっていることに気がついた。

 後でわかったことだけれど、彼女が人形劇団の取材に来るにあたっては、裏に陰謀が潜んでいた。つまり、どんがら座の海阪と報知新聞の後輩が、「仕事ばかりしている永井豪に、誰かいい女性を紹介しよう」というので、彼女なら間違いないと選んで紹介したらしいのだ。もちろん、彼女も僕も、そのことは全く知らなかった。そして、これも後から聞いた話だけれど、彼女は僕を最初に見た瞬間に、「あ、私はこの人と結婚するんだわ」と直感したのだという。なにしろ、占い師をやるくらい霊感の強い女性なのだ。

 そして僕は、そういういろんな事情は一切知らないまま、彼女にどんどん惹かれていったのである。


<第56回/おわり>

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