永井豪天才マンガ家の作り方教えます! 永井豪、初の自伝的エッセイ 豪氏力研究所
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デビルマン、誕生 僕が描いた主人公であるデビルマンの絵、それに敵の悪魔たちの絵を、アニメ会社の人がTV局の人に見せた時こう言われたそうだ。「面白い企画ですけれど、主人公はどこにいるんですか?」。アニメ会社の人はデビルマンを指して「これですよ」と答えた。「えっ、これは敵のボスじゃないんですか?」と更に答えが返ってきたそうだ。あまりの不気味な姿にデビルマンが主人公だとは誰もわからなかったらしい。


主人公はどこにいるんですか
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デビュー直後、自宅で母、三男・泰宇と。
『魔王ダンテ』は、約半年で雑誌とともに終了し、新しいストーリーものの依頼は、どの雑誌からも来なかった。しかし、実はその一方で、次のストーリー連載の芽が意外なところから育ちつつあった。『魔王ダンテ』の連載を終了すると、すぐに東映動画の人が僕の所へすっ飛んで来て、こう言ったのだ。「『魔王ダンテ』をアニメに出来ませんか?」。

 マンガ業界では無視された僕のストーリーマンガの世界に、アニメ業界が強い興味を示してくれたのだ。そういえば、デビューのきっかけになった『ちびっこ怪獣ヤダモン』も、もとはアニメとのタイアップ企画だった。だから僕自身も、アニメの企画に何の抵抗も無かった。「是非やりましょう」と僕は返事をした。

 しかし『ヤダモン』を見てもらえばわかるように、当時のアニメは子供向けで可愛いキャラクターのものばかり。悪魔が主人公のアニメなんて、TV局がやるはず無いと思っていた。と思いつつもやるだけはやってみようと主人公と敵のキャラクターを描いて、それを見てもらうことになった。ところが、登場するのが悪魔だけあってキャラクターもストーリーもなかなかOKが出ない。「主人公がまだ怪物すぎます。もっと人間に近くなりませんか?」などと言われた。僕は「悪魔だから、もともと怪物なのになあ」と思いながらも、何回か描き直した。

 僕が描いた主人公であるデビルマンの絵、それに敵の悪魔たちの絵を、アニメ会社の人がTV局の人に見せた時こう言われたそうだ。「面白い企画ですけれど、主人公はどこにいるんですか?」。アニメ会社の人はデビルマンを指して「これですよ」と答えた。「えっ、これは敵のボスじゃないんですか?」と更に答えが返ってきたそうだ。あまりの不気味な姿にデビルマンが主人公だとは誰もわからなかったらしい。そのやり取りの後、「アメコミ風のヒーローものにしたらイケますよ」と東映動画のプロデューサーに勧められ、結果としてパンツを穿かせたスタイルのデビルマンが出来上がった。


最終回なのに巻頭カラー
『デビルマン』の企画を出してから、結構な時間が経過していた。その間アニメ企画『デビルマン』については、具体的な進展は無かった。僕もキャラクターを見せた時の反応から、アニメ『デビルマン』が実現するとは期待していなかった。まあ、アニメ会社とお付き合いしておけば、そのうちまた良い話が来るだろう、という位に考えていた。ところが、突然『デビルマン』の企画にGOサインが出た、という知らせが来た。「えっ本当ですか!」と僕は驚き、次に「これは困ったことになったぞ」と思った。

 何故なら「アニメをやるときは、そのマンガ版を先行してマンガ誌で連載しましょう」という約束になっていたからだ。だけどその時僕にはもう新しく連載を増やす余裕が無かった。もともとは講談社で連載していた『魔王ダンテ』から生まれた企画だから、『デビルマン』も講談社の雑誌で描くのが筋ではないだろうか。筋なのだけれど、『週刊ぼくらマガジン』は既に無い。講談社で唯一の週刊少年マンガ誌『週刊少年マガジン』では、僕は既に『オモライくん』の連載を始めている。どうしよう? すぐにアニメの放映スタートの日も決まった。やむなく、僕は腹をくくりマガジン編集部に話をした。「『オモライくん』をやめて、新しい連載に切り替えたいんです」。

 マガジン編集部はビックリした。なにしろ『オモライくん』は連載開始からまだ数ヵ月しか経っていなかったのだ。しかも連載当初は然程でもなかったが、この時点ではかなり人気があった。当然のことながら、編集部は必死に僕を翻意させようとした。だけど、僕の決意は固かった。再びやってきたストーリーマンガ連載のチャンスを、逃すわけにはいかないからだ。それにアニメの放映開始も間近に迫っていた。もめにもめた挙句、ギリギリになってようやく編集部は、渋々『デビルマン』への切り替えを承諾してくれた。

 どの位ギリギリまで編集部ともめていたか、『オモライくん』の最終回が載っている号を見ると分かる。『オモライくん』は巻頭、しかもカラー付きなのだ。このことをとってみても編集部は何とか僕を説得して、『オモライくん』をもっと続けるつもりだったことがわかる。でなければ、今回で終わりという回に巻頭カラー付きで持ち上げたりするはずが無い。申し訳ないと思いつつも僕の頭はもう『デビルマン』のことで一杯になっていた。

 アニメ版はキャラクターの造形にしてもストーリーにしても、東映動画の狙いを取り入れて、パンツを穿いてベルトをしているデビルマンで、悪魔が改心して人間の味方になったという設定にした。この設定を作ってからその後でマンガに取り掛かっていった。ここで補足をしておくが、アニメ版と原作版が全然違うものになってしまったのには訳がある。それは連載誌として『週刊少年マガジン』を選んだということである。当時の『週刊少年マガジン』の読者年齢層は高かったのだ。その読者たちに、いきなり悪魔を出して「人間の味方です」と言っても、まったくの絵空事になってしまう。アニメの視聴者には通じても、発表する誌面等の状況も踏まえて、この設定では無理があると判断した僕は、主人公であるデビルマンや敵の悪魔たちを思いっきり不気味なキャラクターにし、リアルで恐ろしい世界を描いた。アニメとの相乗効果もあったことだろう、人気もものすごく、『デビルマン』は僕の代表作となった。

 マンガの世界では異端児だった僕だが、アニメという新しい分野は、僕の才能を認めてくれた。そしてアニメとのメディアミックスを使えばストーリーマンガを描いていけることがわかった。マンガ雑誌も、アニメとの同時進行が大きなプロモーション効果を持つことがわかった。『デビルマン』の成功のお陰で、僕は次々とアニメ化を前提としたストーリーマンガを描いていくことになる。

<第27回/おわり>

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