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夜の仕事場で、構想を練る。
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しかし、飛鳥了を殺して、次の回のネームをやろうと思った時。机に向かっても、どうものっていけない。しっかりした設定で、リアリティーのあるストーリーにしようとすると、不動明がデビルマンになったことを知っている人物が、どうしても必要なのだ。そこで僕は、飛鳥了が運ばれた病院のシーンから、続きを始めることにした。こうして飛鳥了は、作者である僕の思惑を超えて、生き返った。悪魔に関する定義も一からやり直そうと思い、「天敵説」を考え出して、作品世界を再構築し直した。
驚いたことに飛鳥了は、さらに僕の予想を超えて、今度は狂気に走り出した。もともと『デビルマン』という作品では、登場するキャラクターはそう多くない。主要なキャラクターは、不動明、飛鳥了、それに明の恋人・美樹ちゃんの3人だけだ。だから、飛鳥了の成長もまた、ストーリーを広げていく上で必要な要素だったのだ。そのベースは『ガクエン退屈男』の身堂竜馬あたりにあるかもしれない。身堂竜馬もまた、最初はきれいなだけのキャラクターだったが、途中から狂気の殺人者であることがわかっていく。身堂竜馬の正体を明かした時に、石川賢がすごくビックリしていたので、今回の飛鳥了の変貌も、きっとウケるだろうと思い、僕もどんどんその狂気をエスカレートさせていった。
おかしいな、と思い始めたのは、連載も終盤にさしかかってからだった。どうも、物語をリードしているのは、主人公の不動明ではなく、飛鳥了のような気がしてきたのだ。場面によっては、どっちが主役かわからないような感さえある。よく考えると、飛鳥了にはいろいろ不思議なことがあった。なぜ彼は、悪魔への対処方法をよく知っているのだろう? なぜ悪魔世界やデビルマンの誕生について詳しいのだろう? 自分の中で、飛鳥了の正体に対する疑問が湧いてきた。「こいつは、もしかして……?」。その結論が、飛鳥了=サタンだったのだ。しかし、まさか彼がサタンになろうとは、途中まで作者である僕も、全く考えていなかった。
自分で生みだしたキャラクターなのに、そのキャラクターの言動から本質を想像していったわけである。その言動にしたって、僕が考えているわけなのだけれど。『デビルマン』の場合は、不動明を追って描いていってもうまく進まないので、飛鳥了に何かやらせてみる、ということを繰り返していた。一度何か意表をつく行動を取らせると、もう後へは戻れない。水面に小石をポンと入れると、波紋が大きく広がっていくように、彼の本質もどんどん深まり、ストーリーは意外な方向へ拡大していった。
当時はあまり意識していなかったのだけれど、ストーリーマンガには、ギャグマンガとは違う面白さがあった。それは、キャラクターが僕の思惑を超えて育っていく、ということだ。『デビルマン』でいえば、一番僕の予想を超えて変わっていったのは、飛鳥了だった。ストーリーマンガを描いていると、よくこういうことが起こる。その最初の体験が、最後まで描き上げた最初のストーリー連載、『デビルマン』の飛鳥了だったのだ。
<第28回/おわり>
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